Q:就業規則と社内規程は分けるべきか、一緒にすべきか?
A:「1つにまとめる」「分ける」のどちらにもメリット・デメリットがある。対象範囲と内容により判断するのが良い。なお、個人的意見として就業規則と賃金規程を分けるのは反対。
社労士事務所のウェブサイトには以下のような料金表が掲載されていたりします。また、昨今のコロナ禍への対応として、テレワークが推奨されていることもあって「テレワーク規程」を急いで準備した会社もあるでしょう。
作成する書類 | 費用 |
---|---|
就業規則本則 | 200,000円 |
賃金規程 | 100,000円 |
育児・介護休業規程 | 50,000円 |
継続雇用規程 | 50,000円 |
退職金規程 | 50,000円 |
社有車管理規程 | 50,000円 |
自動車通勤規程 | 50,000円 |
出張旅費規程 | 50,000円 |
慶弔見舞金規程 | 50,000円 |
その他の規程 | 50,000円 |
就業規則と社内規程の違いについては以下の記事で解説していますが、「就業規則とこれらの社内規程は分けた方が良いのか、一緒にできないのか?」という質問をよく受けます。
以前は別規程化が制限されていた
社労士でも意外と知らない人がいますが、平成11年の労働基準法改正以前は、就業規則と別規程化することができるものは、
- 賃金(退職手当を除く)
- 退職手当
- 安全及び衛生
- 災害補償及び業務外
に関する事項に限定されていました。こうした制限があった理由は、労働者に就業規則を統一的に把握させる目的のためです。
就業規則という名称と別に様々な規程があって、法令上の就業規則にどの規程が含まれるのか、会社がきちんと整理していないと労働者が混乱してしまう、その防止のための規制だったわけです。
しかし、就業規則で規律する内容が複雑化し、画一的に定めることが困難になってきているという状況を踏まえ、現在はこの制限が廃止されています。
就業規則と社内規程は分けるべきか?
現在は、法令による制限がありません。
そのため、就業規則と社内規程は分けても良いし、分けなくても良く、どちらにもメリット・デメリットがあるというのが結論です。
就業規則と社内規程を分けるメリット
例えば、現在は「同一労働同一賃金」、法令どおりに表現すると「均衡・均等待遇」が求められています。
そのため、雇用区分によって適用される労働条件が異なる場合、
- 就業規則 - 正社員用
- 就業規則 - パート社員用
- 就業規則 - 契約社員用
- 就業規則 - 再雇用社員用
などと雇用区分別に就業規則を作成することが基本的な考え方になります。
一方、育児・介護休業規程のように、法令で適用対象が厳密に定められている場合は、会社で雇用区分ごとに作成する必要性がありません。
以下の図のように各就業規則の中に、同じ文章を重複して入れていくだけであり、別規程として1本にした方がスッキリします。
特に、育児・介護休業規程は、最近他の労働法に比べても頻繁に改正される育児・介護休業法を踏まえたものであり、
- 育児休業
- 子の看護休暇
- 介護休業
- 介護休暇
- 所定外労働・時間外労働の制限
- 時短勤務
など様々な規制、手続き方法などかなり細かな要件を定めることが要求されます。そのため、ただでさえ分厚い就業規則と一緒にすると、かなりの分量になります。
このように、就業規則と社内規程を分けるメリットは、会社として管理・確認しやすい、重複を排除できる、という点になります。
なお、この考え方から、あくまで個人的意見ではありますが、就業規則と賃金規程を分けるのは「百害あって一利なし」と考えています。
就業規則と社内規程を分けるデメリット
もちろん、デメリットもあります。
例えば、育児・介護休業規程を就業規則本則と別に作成する場合、労働基準法が求める就業規則とは
- 就業規則本則 + 育児・介護休業規程
であるということを、会社としてきちんと理解しておく必要があります。また、就業規則との整合性、特に適用範囲に注意しておく必要があります。
現在は多様な働き方が推奨されているため、今後様々な規程が作成されるかもしれません。
その際、むやみに規程を細分化すると統一的な管理が困難になり、法令改正に対応されていない、周知徹底が図られていないなどの問題が生じます。
実際「就業規則本則」はきちんと法令改正にあわせて修正されているのに、「育児・介護休業規程」などの規程は最初の作成後から放置されたままという状態の会社をよく見ます。
労働基準法が求める就業規則 = 就業規則本則 という誤解が広まっているのも1つの原因でしょう。
関連:就業規則本則とは何か?
社労士事務所が別規程化を勧める隠れた本音
冒頭の社労士事務所のウェブサイトの料金表のように「就業規則本則」と「各規程」が分かれている、つまり分けることが推奨されているケースを多く見受けますが、これには、社労士事務所の隠れた本音があります。
それは「社労士事務所にとって得」ということです。
以下の2つの料金表を見たとき、あなたはどちらの事務所に依頼しようと思いますか?
- A社労士事務所の料金表
作成する書類 | 費用 |
---|---|
就業規則本則 | 200,000円 |
賃金規程 | 100,000円 |
育児・介護休業規程 | 50,000円 |
非正規従業員用規程 | 50,000円 |
継続雇用規程 | 50,000円 |
その他の規程 | 50,000円 |
- B社労士事務所の料金表
作成する書類 | 費用 |
---|---|
就業規則 | 500,000円 |
その他の規程 | 50,000円 |
「A事務所に依頼すると20万円、B事務所に依頼すると50万円か・・・じゃあA事務所に依頼することで検討しようかな。」と思いませんか?
しかし、あなたの会社に、正社員だけでなく、パート・契約社員等の社員がいるのであれば、実は、A社労士事務所・B社労士事務所のどちらの料金表も同じです。
この点について以下の記事で詳しく解説していますが、あなたが法令で求められる就業規則の作成を依頼すると、どちらの事務所からも50万円を請求されることになります。
つまり、多くの社労士事務所のウェブサイトの料金表で「就業規則本則」と「各規程」が分かれているのは、
- 就業規則と社内規程を分割することで費用を安く見せることができる
- 社内規程の追加の要望があれば、その分を追加で請求できる
これが、普通の社労士事務所が言いたがらない「率直な本音」です。
だからこそ、あなたは社労士事務所から言われるがままでなく、あなたの会社にとって、何が必要で、何が必要でないか、をきちんと認識しておく必要があるということです。