今回のポイント
Q:就業規則を労働基準監督署に届け出たら有効になるか?
A:就業規則の労働基準監督署への届出は、あくまで労働基準法上の義務を果たすためのもの。従業員への周知があってはじめて就業規則は有効となる。
就業規則に関する労働基準法上の義務
常時10人以上の従業員を雇用する事業場は、就業規則の作成が義務です。
そして、就業規則を作成・変更した場合、労働基準監督署への届出も法的義務です。届出がされていない場合、労働基準法第89条違反となり、罰則(30万円以下の罰金)の対象となります。
- 労働基準法第89条(作成及び届出の義務)
- 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
就業規則の有効性に関する裁判例
今回の論点は、
- 労働基準監督署に届け出た就業規則は有効になるか?
言い換えれば、
- 従業員に対して労働基準監督署に届け出た就業規則は効力を発生するか?
ということですが、残念ながら違います。

えっ、国に届出をしたのに、就業規則は有効にならないんですか?

あくまで労働基準法上の義務を果たしただけです。就業規則を有効にするためにはもっと重要な手続きがあるんです。
以下の最高裁の判決で示されているように、周知されていない就業規則は無効です。
逆に言えば、就業規則は周知されることによって有効になるということです。
- フジ興産事件(最三小判平成15年10月10日)
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- 労働者が得意先との間でトラブルを発生させたり、上司に対する反抗的態度をとったり暴言を述べたりして職場の秩序を乱したことから、就業規則の懲戒事由に当たるとして懲戒解雇したことについて、裁判所は就業規則が労働者に周知されていなかったとして懲戒解雇は許されないとした事案。
- 使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別および事由を定めておくことを要する。就業規則が法的規範としての性質を有するものとして効力を生じるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが採られていることを要する。
その後、この最高裁判決を受けて、以下のとおり労働契約法第7条が制定されています。
- 労働契約法第7条(法令等の周知義務)
- 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。

確かに、よく考えたら、周知されていない = 知らされていない就業規則が有効になるのはおかしいですね。

労働基準監督署に就業規則を届け出て受付印をもらった後、周知をせずに金庫に保管しているという会社もありますからね。。。

労働基準監督署に届出をしたから、就業規則の効力があると誤解している会社は多そうですね。