年1回の定期健康診断に関して就業規則で定めておくべき内容は?

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社労士事務所・業界の慣習の中には一般常識から考えておかしい部分が正直あります。しかし半ばタブーとされている質問であっても業界として信頼を得るためには、正直かつ本音で回答することが重要と考えます。

今回のポイント

Q:年1回の定期健康診断に関して就業規則で定めておくべき内容は?
A:健康診断の受診拒否、受診費用、受診時間の有給・無給などよくあるトラブルに備えた内容を定めておくべき。

健康診断に関する2つの義務

労働安全衛生法に基づき、会社には年1回の定期健康診断を従業員に受診させる義務があります。

ただし、健康診断に関しては、以下のように2種類の義務があります。

  • 会社:健康診断の実施義務(第66条第1項)
  • 労働者:健康診断の受診義務(第66条第5項)
労働安全衛生法第66条(健康診断)
  1. 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行なわなければならない。
  2. 労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。
Qちゃん
確かに、会社が健康診断を行っても、従業員が受診しなければ、会社は義務を果たせないですもんね。
A先生
労働安全衛生法は基本的に事業者に対する義務を定めたものなので、労働者に義務づける第66条第5項は珍しいと言えます。

また、労働安全衛生法第66条第5項には続きがあって、

  • 事業者の指定による健康診断の受診を希望しない場合は、法定の健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出してもOK

と定められています。

Qちゃん
持病があって、定期的に病院で検査を受けている人もいますもんね。
A先生
はい。何度も同じ検査を受けたくないという心情は理解できますよね。ただし、結果を証明する書面を会社に提出するという条件はあります。

定期健康診断を実施しない場合の罰則

会社が、定期健康診断を実施しない場合、50万円以下の罰金となります(労働安全衛生法第120条)。

ただし、労働者の健康診断の受診義務に関しての罰則はありません。

定期健康診断でトラブルになる事項

さて、それでは、今回の質問「年1回の定期健康診断に関して就業規則で定めておくべき内容は?」に回答します。

まず、就業規則は起こりえるトラブルを想定して定めておくものであり、定期健康診断では以下のようなトラブルがよく起こるため、その点を明確にしておくことが重要です。

  • 健康診断の受診対象は正社員だけ?
  • どうしても健康診断を受診しない・拒否する従業員がいる(自ら健康診断の受診もしない)
  • 持病があって通院し、自ら健康診断を受けているがその結果を会社に提出しない
  • 自ら健康診断を受けている場合の受診費用は会社・本人のどちらが負担すべきなのか?
  • 健康診断を受けている時間は、有給 or 無給?
Qちゃん
健康診断を受診したくない人っているんですか?
A先生
はい。なぜか会社に1〜2人はいたりします。事情・理由がある場合もありますが、発見されたら不安なので健康状態を知りたくないという人もいます。

健康診断の受診対象は正社員だけとは限らない

健康診断の対象は、正社員だけではありません。「常時使用する短時間労働者」も対象になります。

「常時使用する短時間労働者」は、行政通達(平成19年10月1日付け基発第1001016号)により、以下の1と2の双方の要件を満たすものと示されています。

  1. 無期雇用契約の者、有期雇用契約で契約期間が1年以上(特定業務従事者の場合は6か月)である者、契約更新により1年以上使用されることが予定されている者、1年以上引き続き使用されている者
  2. 通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上である者
    ※ 4分の3未満である短時間労働者であっても1の要件に該当し、通常の労働者の 1週間の所定労働時間数のおおむね2分の1以上である者に対しても一般健康診断を実施することが望ましい
Qちゃん
無期雇用契約や1年以上勤務しているパートで、1週間の所定労働時間数の4分の3以上であれば、健康診断の対象になるんですね。
A先生
はい。季節的な雇用契約でない限り、1年以上という勤務期間はほぼ該当するでしょうから、判断のポイントとなるのは1週間の所定労働時間数の4分の3以上という部分でしょうね。

健康診断を受診しない・拒否する従業員への対応

前述のとおり、労働者には健康診断の受診義務が法律で定められています。しかし、前述のとおり、労働者には法令による罰則はありません。

一方、会社には健康診断の実施義務があります。

そのため、会社は、就業規則で「健康診断の受診命令に従わない従業員に対しては懲戒処分を行う」旨を定めておくべきです。

Qちゃん
法律による受診義務があるといっても、懲戒処分まで行うのは過剰な対応ではないんですか?
A先生
悩ましいところですが、会社には安全配慮義務があるため、健康診断の未受診は放置できない問題なんです。

以下の記事にある通り、健康診断後のフォローがなかったという点で会社の安全配慮義務違反とされた裁判例もあります。

参考:安全配慮義務の基本と3つのチェックポイント

Qちゃん
でも、そもそも健康は従業員本人の問題ですよね?
A先生
はい。会社には「安全配慮義務」、従業員には「自己保健義務」があります。そのため、自身の健康配慮を行っていないとして、労働者の過失を認めた裁判例もあります。

参考:自己保健義務とは? 法令との関係・裁判例を用いて内容を解説!

なお、「持病があって通院し、自ら健康診断を受けているがその結果を会社に提出しない」場合も、この状態のままでは健康診断の受診を会社が確認できません。

そのため会社は、就業規則で「会社の行う健康診断ではなく、自ら健康診断を受診した場合はその結果を会社に提出する義務を負い、提出を拒否する従業員に対しては懲戒処分を行う」旨を定めておくべきです。

健康診断の受診費用は会社 or 本人?

会社に健康診断の実施義務がある以上、会社負担と考えるのが自然です。

ただ、法定以上の項目で高額な健康診断まで支払う必要はないので、会社が実施する健康診断の受診費用を上限として設定するのも1つの案です。

Qちゃん
自ら受診した健康診断の場合は自己負担と主張する社労士の話を聞いたことがありますよ。
A先生
うーん、法律を素直に読んだ上で、人としての常識、社労士としての職業倫理から考えると完全に自己負担とするのは個人的に疑問に感じます。もしかしたら社労士は経営者・会社の味方と誤解しているのかもしれません。

関連:会社側・労働者側の立場に立つ社労士がいるのか?

健康診断を受けている時間は、有給 or 無給?

健康診断を受けている時間を有給にするのか、それとも無給にするのかは、法律上の定めはありません。

ただし、以下の行政通達が示されているため、就業規則で有給・無給のどちらにするのかを明確にしておくべきです。

行政通達(昭和47.9.18 基発第602号)
健康診断の受診に要した時間についての賃金の支払いについては、労働者一般を対象とする一般健康診断は、一般的な健康の確保を図ることを目的として事業者にその実施を義務づけたものであり、業務遂行との関連において行われるものではないので、その受診に要した時間については、当然には事業者の負担すべきものではなく、労使協議して定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましい。
Qちゃん
A先生は有給・無給のどちらにすべきと考えているんですか?
A先生
これは難しいですね。ただ、巡回健診バスに来てもらえば数時間で済む一方で、自ら別の病院に健康診断に行けば半日はかかりますよね。そういったケース別に有給・無給を考えても良いのではないでしょうか。
Qちゃん
年次有給休暇を利用すれば良いという考え方もありますね。
A先生
年次有給休暇は従業員本人が自由に利用できるものですからね。

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