Q:なぜ就業規則の周知は必要なのか?
A:最高裁判決により、就業規則が効力を生じるためには労働者に周知させる手続きが必須であると示されているため。
就業規則を作成・変更した場合は、労働基準監督署への届出が必要です。届出がされていない場合、労働基準法第89条違反となり、罰則(30万円以下の罰金)の対象となります。
- 労働基準法第89条(作成及び届出の義務)
- 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
就業規則を作成・変更したことがある会社なら、ここまでは知っている会社が多いでしょう。
関連:就業規則の作成が義務付けられる「常時10人以上」の正しい数え方は?
就業規則の周知も義務、違反の場合30万円以下の罰金
しかし、就業規則の周知をしていない会社は意外と多いようです。就業規則の周知をしていない場合、労働基準法第106条違反となり、こちらも罰則(30万円以下の罰金)の対象となります。
- 労働基準法第106条(法令等の周知義務)
- 使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、・・・(略)を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
周知されていない就業規則は無効
就業規則の周知をしていなければ労働基準法違反となりますが、それ以上に注意すべき点があります。
それは、以下の最高裁の判決で示されているように、周知されていない就業規則は無効ということです。
フジ興産事件、最三小判平15.10.10
- 労働者が得意先との間でトラブルを発生させたり、上司に対する反抗的態度をとったり暴言を述べたりして職場の秩序を乱したことから、就業規則の懲戒事由に当たるとして懲戒解雇したことについて、裁判所は就業規則が労働者に周知されていなかったとして懲戒解雇は許されないとした事案。
- 使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別および事由を定めておくことを要する。就業規則が法的規範としての性質を有するものとして効力を生じるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが採られていることを要する。
その後、この最高裁判決を受けて、以下のとおり労働契約法第7条が制定されています。
- 労働契約法第7条(法令等の周知義務)
- 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。
せっかくお金を払って、社労士に就業規則を作成・変更してもらい、労働基準監督署に届出までしても、周知をしていなければその就業規則は無効となる、つまり何の役にも立たないということです。もったいないことです。
逆に言えば、就業規則の作成・変更の依頼を受ける社労士も、作成して納品して終わりではなく、周知までフォローしなければ無責任とも言えます。
就業規則の周知は必須
ある社労士のウェブサイトに「就業規則の周知は望ましい」と書いてあるものを見たことがありますが、それは間違いです。
「望ましい」ではなく、就業規則の周知は必須です。
例えば、10名未満の会社には、労働基準法第89条による就業規則の作成・変更・届出の義務がありません。そのため、労働基準法第106条による就業規則の周知義務もありません。
しかし、10名未満の会社でも「働くルールを明確にしておきたい」「人事労務のトラブルがあった場合に対応する根拠として備えておきたい」という理由で就業規則を作成している場合があります。
この場合、最高裁の判例・労働契約法第7条が示すように、就業規則の周知をしていなければ無効となってしまうため、10名未満の会社でも就業規則の従業員への周知は必須です。
実際、変更された就業規則について、労働基準監督署に届出がされていなくても、その有効性を検討した裁判例もあります。以下の事案では周知の要件を満たしておらず、変更は無効とされたわけですが。
中部カラー事件、東京高判平19.10.30
就業規則の変更について、労働基準監督署への届出がなかった場合であっても、従業員に対し実質的に周知されていれば、変更は有効と解する余地があるとされた事案。
なお、就業規則の正しい周知方法には以下の記事をご参考ください。