Q:就業規則を労働基準監督署に届出するときの意見書の書き方は?
A:目的は「意見を聴く」であり、意見「特になし」が大半であるが、意見があったとしてもそのまま記載しておけば良い。
就業規則を作成・変更した場合は、労働基準監督署への届出が必要です。
届出がされていない場合、労働基準法第89条違反となり、罰則(30万円以下の罰金)の対象となります。
- 労働基準法第89条(作成及び届出の義務)
- 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
関連:就業規則の作成が義務付けられる「常時10人以上」の正しい数え方は?
そして、届出の際には、作成・変更した就業規則一式だけでなく、労働組合または従業員の過半数代表者の意見書を添付しなければなりません。
なお、大半の中小企業には労働組合がないため、以降は「従業員の過半数代表者」と書いていきます。
- 労働基準法第90条(作成の手続)
-
- 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
- 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。
就業規則の意見書の様式は任意
労働基準法第90条の条文を細かく見ると、
- 第1項で「従業員の過半数代表者の意見を聴かなければならない」
- 第2項で「意見を記した書面を添付しなければならない」
となっています。そして、労働基準法施行規則第49条第2項では、労働者を代表する者の氏名の記載が求められているのみです。
- 労働基準法施行規則第49条第2項
- 法第90条第2項の規定により前項の届出に添付すべき意見を記した書面は、労働者を代表する者の氏名を記載したものでなければならない。
つまり、就業規則の意見書に必要な項目は、従業員の過半数代表者の「氏名」と「意見」の2つのみで、様式は任意であることがわかります。
厚生労働省による就業規則意見書の参考様式
ただ、任意と言われても困るだろう、ということで厚生労働省・東京労働局のウェブサイトには「様々な様式集」が掲載されており、Microsoft Word、PDF形式で就業規則の意見書も掲載されています。
といっても、「平成」が残っていたり、押印を求める様式のままだったり・・・とこれはまあご愛嬌でしょう。しかし、Word版を見ると、あまりの衝撃で卒倒しそうになりますが、表組みを用いて空白のバランスを取っています。
それでも任意の様式を示してくれているので感謝すべきなのでしょう。
就業規則の意見書の記入例
さて、ここからは、就業規則の意見書にどのように記入すべきか、という具体例に入っていきます。
意見書に必要な項目はわかったので、あえて「ネ申 Word」、そして無意味な罫線に従う必要はありません。
ここで、労働基準法第90条第1項を改めて確認してみると、
- 従業員の過半数代表者の意見を聴かなければならない
となっています。あくまで「意見を聴く」であり「同意を得る」必要はないということです。
つまり、極端な場合、従業員の過半数代表者が、就業規則の内容に「反対」し、書面に「反対である」と記入しても、意見を聴いたことに違いはありません。
そのため、以下の行政解釈に基づき「反対である」旨の意見書を添付して届出をすれば、労働基準法上の問題はありません。
Q:就業規則作成に当り
- 法第90条第2項の規定による組合側の意見書添付に際し、審議未了その他の事由により全面的に反対を表明する意見書を添付した場合、その就業規則は効力を発生するか。
- なお意見書添付に際しその就業規則の特定部分に関して反対意見を附した場合、その特定部分の条項は効力を発生するか。
A: 就業規則に添付した意見書の内容が当該規則に全面的に反対するものであると、特定部分に関して反対するものであるとを問わず、又その反対事由の如何を問わず、その効力の発生についての他の要件を具備する限り、就業規則の効力には影響がない。
(昭和24.3.28 基発第373号)
この点について、労働契約法上の就業規則の不利益変更による同意と混同する人が多く、社労士でさえ誤解していることがあります。
あくまで、労働基準監督署に意見書を添付するのは、労働基準法第90条による「意見を聴く」意見書が求められているのであり「同意書」を求められているわけではありません。
なお、以下は、当事務所で用いている意見書の様式です。
意見が「特になし」の場合
この意見書の目的は、就業規則の案に対して、従業員の過半数代表者の「意見を聴く」ことです。
そのため、意見書には「意見なし」「意見あり」の2つ、そして「意見あり」であればどのような意見なのかを記載する、これだけです。
従業員の過半数代表者が「意見なし」ということであれば、それは就業規則の案に対して賛成ということと同じなので、
- 1の「案に賛成します」に○
をつけてもらって終わりです。過去に人事労務のトラブルがない企業では、意見「特になし」となるのが大半であるため、こちらに該当することが多いでしょう。
意見が「あり」の場合
もちろん、従業員の過半数代表者が意見「あり」ということもありえます。
会社から「特になし」「賛成」を強制してはいけません。
前述のとおり、この意見書に求められていることは「意見を聴く」ことであって同意を得ることではありません。
そのため、従業員の過半数代表者が「2. 以下のとおり意見を提出する」に○を付けて、どんな意見が記載されていたとしても、その意見書を添付して就業規則を労働基準監督署に届出をすればOKです。
従業員の過半数代表者が意見書を記載しない場合は?
従業員の過半数代表者が、変更された就業規則に対して、意見がある場合、たとえ全面反対であっても、それを意見書に記載して労働基準監督署に届出すれば、労働基準法第90条の要件を満たします。
では、従業員の過半数代表者が意見書を記載しない場合はどうすべきか? という点については、
- 就業規則の内容を説明し、意見を聴いたことが客観的に証明できるような経緯を記載した「意見書不添付理由書」
を添付して労働基準監督署に届け出れば受理されます(昭和23.5.11基発735号、昭和23.10.30基発1575号)。
変更に反対し意見書を書かない状況というのは、大部分が不利益変更に関係するためでしょう。その場合は労働契約法による個別合意という別の問題があります。そもそも意見書さえ記載されない状況は異常ですし。
就業規則の届出で必要な書類一式
労働基準監督署への就業規則の届出の際に必要な書類一式は、
- 作成・変更した就業規則一式
- 従業員の過半数代表者の意見書
- 就業規則(変更)届
の3つです。変更届の記入例とポイントについては、「就業規則の変更届の記入例とポイントは?」で解説しています。