Q:中小企業はシンプルな就業規則で本当に良いか?
A:シンプルの定義によるが、分量が少ない(薄い就業規則)という意味であれば、間違い。従業員数ではなく、働き方の多様性によって分量は決まる。
就業規則の記載事項は、中小企業も大企業も同じ
就業規則は、労働基準法第89条に基づき、
- 絶対的必要記載事項
- 相対的必要記載事項
を記載しなければなりません。これは大企業でも中小企業でも同じです。
就業規則の分量が多くなる部分
一般的に、就業規則の条文で分量が多くなる部分は、
- 絶対的必要記載事項
- 労働時間
- 賃金
- 休暇・休業
- 相対的必要記載事項
- 服務規律
- 懲戒
です。当然、企業の考え方や実態によりますが。
就業規則の分量は、従業員数でなく、働き方の多様性による
結論から書くと、就業規則の分量は、従業員数でなく、働き方の多様性によって決まります。以下に例を示します。
例: 始業・終業時刻の多様性で比較
労働時間に関する規定について、従業員数で比較すると20倍もの差がある以下の2つの企業を例に、記載する分量を比較してみます。
- 従業員数30人の小規模企業:1か月単位の変形労働時間制
- 従業員数600人の大企業:始業・終業時刻はすべての従業員が一律
まず、始業及び終業の時刻は、就業規則の絶対的必要記載事項です。
「1. 従業員数30人の小規模企業」では、1か月単位の変形労働時間制を用いていますが、この制度は、24時間対応が求められる病院や介護施設、また宿泊業、飲食業で用いられることが多いです。
この場合、就業規則には以下の規定が必要となります(少し時刻や表現を変更していますが、実際の事例です)。
- 1か月単位の変形労働時間制を適用する従業員の所定労働時間は、毎月○日を起算日とする1か月ごとに平均して、1週間当たり40時間以内とする。
- 前項における従業員の始業時刻及び終業時刻は、会社が毎月○日までに作成し各従業員に周知する勤務シフト表によるものとする。
- 前項の始業時刻・終業時刻及び休憩時間を決定する勤務シフト表は、以下の勤務パターンにより作成するものとする。
始業・終業時刻 | 休憩時間 | |
---|---|---|
早出勤務 | 7:30 - 16:30 | 60分 |
日勤 | 8:30 - 17:30 | 60分 |
遅出勤務 | 9:30 - 18:30 | 60分 |
午後勤務 | 13:00 - 22:00 | 60分 |
夜勤 | 16:30 - 10:30 | 120分 |
次に「2. 従業員数600人の大企業:始業・終業時刻はすべての従業員が一律」の場合の就業規則の規定例は以下のとおりです。
- 所定労働時間は、1週40時間、1日8時間とし、始業時刻及び終業時刻は以下のとおりとする。
- 始業時刻:午前○時○分
- 終業時刻:午後○時○分
1つの条文だけでも、分量が全然違うことがわかりますよね?
例として、従業員数30人の小規模企業と従業員数600人の大企業としましたが、従業員数は関係ありません。
どんな業種・どんな勤務形態なのかによって記述する分量が変わるということです。
また、従業員に始業・終業時刻の裁量を委ねるフレックスタイム制を導入する場合にも就業規則に追記する必要があり、労使協定の締結も必要になります。
つまり、すべての従業員の始業・終業時刻を一律にすれば1文で条文が済む一方、多様な働き方を認めれば認めるほど、就業規則の条文は増えていくということです。
従業員数が少ない小規模の会社だからといって「24時間勤務をしない」「始業時刻と終業時刻が全員一律」ということはありませんよね?
むしろ、私の実感としては、中小企業の方が従業員の希望に沿った働き方を認めている印象があるので、その場合は中小企業の就業規則の方が分厚くなりますね。
参考:1か月単位の変形労働時間制の基本と導入・運用時の注意点
例:年次有給休暇取得の多様性で比較
年次有給休暇の取得も同様です。
年次有給休暇は、法の趣旨として、1日単位の取得が原則です。
しかし、役所の手続きなどで1時間単位で年休を取得したいという従業員のニーズもあります。
そのため、労働基準法では時間単位の年休制度を年5日に限って認めていますが、その要件として就業規則への定め、労使協定の締結が必要です。
つまり、1日単位での年休取得しか認めない企業なら就業規則の分量は少なくなり、1時間単位での年休取得を認めるならば就業規則の分量は増えることになります。
そして、1時間単位での年休取得を認める企業の方が、従業員の多様なニーズに応えていると言えます。
大企業が1時間単位の年休取得を認め、小規模企業が1日単位の年休取得しか認めない、なんてことはありませんよね?
参考:1時間単位で年次有給休暇を取得できる時間単位年休の基本と導入
まとめ
今回は、労働時間制度と年休を例に解説しましたが、例を挙げ出すとキリがないほどです。
例えば、賃金も同様です。
賃金の手当の種類が多ければ、その分就業規則に記載する分量は増えます。
実際、当事務所では10を超える手当の種類を有する中小企業の就業規則を作成したことがありますが、手当の種類が多ければ要件・金額を1つ1つ記載していくため、当然分量が増えます。
就業規則の分量は、従業員数は関係ない、働き方の多様性によって決まるという理由がわかりましたでしょうか?
ただ、シンプルの対義語である「複雑」という意味で考えたら「中小企業はシンプルな就業規則で良い」は正しいのでは?
ただ、その意味なら、大企業・中小企業といった規模は関係ないですよね。どんな規模の企業でもシンプルにすべきですし・・・😅
逆に考えたら「大企業は複雑な制度・手続きにすべき」はおかしいですもんね。実態として複雑になっている大企業はありそうですけど。