管理職しかいない事業場における過半数代表者の選出方法は?

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今回のポイント

Q:管理職しかいない事業場における過半数代表者の選出方法は?
A:5つの労使協定であれば、管理監督者でも過半数代表者になることができる。

過半数代表者の要件

労使協定を締結する過半数代表者の正しい選出方法は?」で解説しているとおり、過半数代表者となるのは、次のいずれの要件も満たす人です(労働基準法施行規則第6条の2第1項)。

  • 管理監督者でないこと
  • 協定当事者等を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法で選出された者であること
  • 使用者の意向によって選出された者でないこと

ただし、事業場によっては管理監督者しかいない場合もあります。

その場合、1つ目の要件である「管理監督者でないこと」を満たすことができません。

管理監督者しかいない場合の過半数代表者の要件

実は、過半数代表者の要件を定めている労働基準法施行規則第6条の2には、以下の第2項があります。

労働基準法施行規則第6条の2第2項
前項第1号に該当する者がいない事業場にあつては、法第18条第2項、法第24条第1項ただし書、法第39条第4項、第6項及び第9項ただし書並びに法第90条第1項に規定する労働者の過半数を代表する者は、前項第2号に該当する者とする。

条文の引用ばかりでわかりにくいと思いますが、要するに、以下の5つの労使協定に関して締結する際であれば、過半数代表者は管理監督者であっても良いということです。

  • 従業員の委託により社内預金を管理するとき
  • 法令によるもの以外で賃金から控除をするとき
  • 年次有給休暇を時間単位で付与する場合
  • 年次有給休暇の計画的付与を行う場合
  • 年次有給休暇取得日の賃金を健康保険の標準報酬日額で支払う制度を導入する場合

そもそも事業場に管理監督者しかいないので、当然と言えば当然です。

ここで鋭い方だと、他の労使協定の場合はどうなるのか? と思うかもしれません。

5つ以外の労使協定の締結の場合に管理監督者は過半数代表者になれるのか?

具体的には、5つ以外の労使協定として以下のようなものがあります。

  • 労使協定により1か月単位の変形労働時間制を導入する場合
  • フレックスタイム制を導入する場合(清算期間が1か月以内)
  • フレックスタイム制を導入する場合(清算期間が1か月超)
  • 1年単位の変形労働時間制を導入する場合
  • 1週間単位の非定型的変形労働時間制を導入する場合
  • 交替制など一斉休憩によらない場合
  • 時間外労働・休日労働をさせる場合
  • 月60時間超の時間外労働をさせた場合の代替休暇制度を設ける場合
  • 法定労働時間を超える事業場外のみなし労働時間制を導入する場合
  • 専門業務型裁量労働制を導入する場合

なお、法定の労使協定については以下にまとめています。

関連:法定の労使協定の種類と労働基準監督署への届出の要否は?

結論から言うと、これらの労使協定の締結の場合、管理監督者は過半数代表者になることができません。というより、正確に言えば、過半数代表者になる必要がありません

改めて5つ以外の労使協定をよく見てください。これらは労働時間に関する労使協定ばかりです。

管理監督者は、そもそも労働基準法による法定労働時間等の規制の適用が除外されています。だからこそ、多くの企業では管理職に残業代を払っていないんですよね?

つまり、管理監督者しかいない事業場では、

法定労働時間等の規制が適用されない
労使協定を締結する必要がない
過半数代表者を選出する必要がない

ということです。つまり、実は、労働基準法施行規則第6条の2第1項のような細かな規定を覚えていなかったとしても、労働基準法の適用という基礎の部分を理解していれば、今回の疑問には回答できるということです。やはり基本は重要です。

Qちゃん
労働法の基礎の部分って理解しているようで、実は理解できていない可能性があるかもです。
A先生
法改正などの最新情報を求める人は多いのですが、実は、労働法の基礎をきちんと理解しておく方が実務に役立つことの方が多いんですよ。

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