今回のポイント
Q:社労士(社会保険労務士)はどんな業務をしているのか?
A:社会保険関係の手続き業務、賃金計算業務、人事労務に関する相談業務、助成金の申請業務など企業に関係する業務もあれば、年金相談など個人を相手にする業務もあり、意外と幅広い業務をしている。
「社労士って資格名は知っているけど、何をする人なの?」という質問はよく聞きますね。
はい。知名度はまだまだ低い気がしますし、そもそも社労士が何をする人なのか知らないって人は多いです😅
社会保険労務士法に基づく国家資格
社労士(社会保険労務士)は、社労士法(社会保険労務士法)に基づく国家資格です。
社労士法第1条により、社労士は、
- 労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与すること
- 事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資すること
を目的とする業務を行います。
- 社労士法第1条(目的)
- この法律は、社会保険労務士の制度を定めて、その業務の適正を図り、もつて労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与するとともに、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資することを目的とする。
社労士って、労働保険や社会保険の手続きをする人というイメージが強いですが、それだけじゃないんですね。
はい。むしろ、昨今は「事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資すること」の方が重要視されている気がします。
あれ、インターネットで「社長の味方」って書いている社労士のサイトを見たことがありますが、社長の味方や労働者の味方になるわけではないんですね。
はい、社労士は以下のように法律で職責が明確に示されているとおり、公正な立場が求められています。片方の立場に立つのは問題です。
- 社労士法第1条の2(社会保険労務士の職責)
- 社会保険労務士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正な立場で、誠実にその業務を行わなければならない。
しかし、会社の中でトラブルがあったときは、社労士はどちらかの立場に立つんじゃないんですか?
状況によってはありえます。しかし、大抵のトラブルは、どちらかの誤解、感情によるもつれに起因するものなので、法令や裁判例など根拠のある情報に基づいて「話せばわかる」となります。
そもそも従業員と社長は敵ではなく仲間なんですから。
そもそも従業員と社長は敵ではなく仲間なんですから。
理想論すぎる気もしますが。。。「まともに話ができない人」っていませんか?
それはあります。ただ、私の経験上「まともに話ができない従業員」だけでなく「まともに話ができない社長」もいます。いずれにしても「問題従業員への対処」をクローズアップさせて、敵対関係をあおるような社労士は問題ですし、そもそも公正な立場に立っていない社労士は法律違反です。
社労士(社会保険労務士)の業務
社労士の業務は、社労士法第2条、第2条の2に定められています。
この中には、
- 社労士にしかできない業務(独占業務)
- 社労士の中でも「特定社労士」にしかできない業務
- そして社労士以外の無資格者でもできる業務(3号業務)
が定められています。
そして多くの社労士が行っている代表的な業務は以下のとおりです。
- 労働保険・社会保険手続き業務
- 毎月の賃金計算業務
- 人事労務に関する相談業務
- 助成金の申請業務
- 就業規則の作成業務
- 人事制度(評価制度、等級制度、賃金・退職金制度)の構築業務
- 人材育成に関する研修・セミナー業務
まさに社労士の業務というイメージです。
ですよね。これら以外にも、最近は「経営労務診断」など企業の人事労務管理が適切になされているかどうかをチェックする業務もあります。
こうして見ると企業と関係する業務を行っている社労士が多いんですか?
数や比率はわかりませんが、個人とのみ関わる業務を中心にしている社労士もいます。年金相談など社労士とFPの両方の資格を活かして仕事をしている人もいます。
社労士の各業務は専門性が必要
すべての社労士が、上の業務をすべてこなすことができるんですか?
いえいえ、それはありえないです・・・。1つ1つの業務に時間や労力が必要ですし、専門性も必要ですから。このうちの1、2つくらいを常に勉強し続けて、ようやく「○○が専門です」と言えるレベルになります。
あれっ、でも上の業務内容をすべて対応できるようにWebサイトに書いている社労士もいるような・・・😅
1つの業務内容ごとに、1つまたは2つの専門性を持った社労士が、複数いるような事務所ならありえるでしょうね。
じゃあ、1人の社労士ですべての業務を行っているようであれば、ウソってことですか?
ウソというより、知識が浅いのでしょう🤐 浅く広くか、深く狭くしかありえませんから😅
となると、社労士を探すときは、何が専門なのかという点から調べると良いんですね。
はい。その通りです。
なお、最後に、社労士が関係する法律について社労士法の別表第一をもとに以下に示します。
これを見るだけで、社労士の業務の範囲がいかに広いかがよくわかるでしょう(あくまで手続き関係の法律だけです)。
社労士の関係する法律一覧(クリックしたら開きます)
別表第一(第2条関係)
- 労働基準法
- 労働者災害補償保険法
- 職業安定法
- 雇用保険法
- 労働保険審査官及び労働保険審査会法
- 職業能力開発促進法
- 駐留軍関係離職者等臨時措置法
- 最低賃金法
- 中小企業退職金共済法
- 国際協定の締結等に伴う漁業離職者に関する臨時措置法
- じん肺法
- 障害者の雇用の促進等に関する法律
- 激甚じん災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律
- 労働災害防止団体法
- 港湾労働法
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
- 炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律
- 家内労働法
- 勤労者財産形成促進法
- 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
- 沖縄振興特別措置法
- 労働安全衛生法
- 作業環境測定法
- 建設労働者の雇用の改善等に関する法律
- 賃金の支払の確保等に関する法律
- 本州四国連絡橋の建設に伴う一般旅客定期航路事業等に関する特別措置法及び第二十条の規定に限る。)
- 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
- 地域雇用開発促進法
- 中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会の創出のための雇用管理の改善の促進に関する法律
- 介護労働者の雇用管理の改善等に関する法律
- 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
- 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律
- 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
- 林業労働力の確保の促進に関する法律
- 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
- 個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律
- 石綿による健康被害の救済に関する法律
- 次世代育成支援対策推進法
- 職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律
- 生活困窮者自立支援法
- 専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法
- 青少年の雇用の促進等に関する法律
- 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律
- 新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための雇用保険法の臨時特例等に関する法律
- 特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律
- 健康保険法
- 船員保険法
- 社会保険審査官及び社会保険審査会法
- 厚生年金保険法
- 国民健康保険法
- 国民年金法
- 年金生活者支援給付金の支給に関する法律
- 独立行政法人福祉医療機構法
- 石炭鉱業年金基金法
- 児童手当法
- 平成二十二年度等における子ども手当の支給に関する法律
- 平成二十三年度における子ども手当の支給等に関する特別措置法
- 高齢者の医療の確保に関する法律
- 介護保険法
- 前各号に掲げる法律に基づく命令
- 行政不服審査法
すごい数の法律ですね。これを理解しているんですか?
そんなわけありませんよ😅
法律の下には政令・省令がありますし、指針や通達まで含めると労働基準法だけでも膨大な内容になるわけですから。
法律の下には政令・省令がありますし、指針や通達まで含めると労働基準法だけでも膨大な内容になるわけですから。
えっ、でも「何でもご相談ください」というスタンスの社労士もいませんか?
知ったかぶりをしているのか、それとも「相談されてから調べればいいや」と軽く考えているのかもしれませんね。
確かに、社労士の業務がこれだけ幅広いと、何かの専門にならざるを得ませんよね。すべての業務ができるスーパー社労士なんていないでしょうし。
そもそも「専門家」と言うのであれば、何らかの専門があるはずです。
町医者と専門医の違いを例に考えるとわかりやすいかもしれませんね。もちろん、言わずもがなですが、町医者と専門医の優劣を意図しているわけではなく、役割の違いの例を示しているだけです。
町医者と専門医の違いを例に考えるとわかりやすいかもしれませんね。もちろん、言わずもがなですが、町医者と専門医の優劣を意図しているわけではなく、役割の違いの例を示しているだけです。