出勤簿は、労働基準法で作成・保存が義務づけられている法定帳簿です。
労働基準監督署の監督指導でも必ずチェックされる重要書類であり、不適切な記録は未払い残業代などの法令違反につながるため要注意です。
しかし、私の経験上、自己申告制による不適切な運用、タイムカードの打刻時刻と実労働時間の乖離など、出勤簿に関する問題を抱えている会社は少なくありません。
今回は、出勤簿の適正な記録方法、保存期間、実務上の注意点について解説します。
なお、人事労務における法定3帳簿とは、
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 出勤簿
とされていますが、法的な定義はなく「そう呼ばれている」程度のことです。
出勤簿とは
出勤簿とは、労働基準法第109条により作成・保存が義務づけられている法定帳簿です。
同条では、「労働関係に関する重要な書類」として5年間(現在は経過措置により当分の間は3年間)保存することが定められています。違反した場合は、同法第120条により30万円以下の罰金という罰則まである強行法規であるため、注意が必要です。
- 労働基準法第109条(記録の保存)
- 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を5年間保存しなければならない。
また、労働安全衛生法第66条の8の3では、労働時間の状況を客観的な方法により把握することが義務づけられています。これは2019年4月の働き方改革関連法の施行により法制化されたもので、出勤簿はこの義務を果たすための中心的な書類となります。
- 労働安全衛生法第66条の8の3
- 事業者は、第66条の8第1項又は前条第1項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第1項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。
出勤簿の記録事項
出勤簿に記録すべき事項は、以下のとおりです。
- 出勤日
- 始業時刻
- 終業時刻
- 休憩時間
賃金台帳には「労働時間数」の記載が求められており、その根拠となるのが出勤簿です。つまり、出勤簿は、賃金台帳の記載内容を裏付ける重要な証拠書類となります。
出勤簿の記録対象者
出勤簿は、すべての労働者について記録しなければなりません。正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員、嘱託など、会社がどのような雇用区分を設定していても、雇用区分に関わらずすべてです。
管理監督者の場合
管理監督者についても、出勤簿による労働時間の記録は必要です。
管理監督者は、労働基準法第41条により労働時間、休憩、休日に関する規定が適用除外されますが、だからといって労働時間の記録が不要ということではありません。
労働安全衛生法に基づく労働時間の状況把握の義務は管理監督者にも及ぶためです。
また、深夜労働(午後10時から午前5時までの労働)については、管理監督者であっても割増賃金の支払いが必要なため、深夜労働時間を把握する必要があります。
役員の場合
役員はそもそも労働者ではないので、出勤簿の記録は不要です。
ただし、兼務役員の場合は、労働者部分について記録が必要です。例えば、取締役営業部長という肩書きで、実質的に営業部長としての業務に従事している場合は、その労働時間を記録する必要があります。
労働時間の客観的な把握方法
厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、労働時間の把握方法として、以下の方法が示されています。
- 原則:タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録
- 例外:自己申告制(ただし要件あり)
自己申告制を採用する場合は、以下のすべての要件を満たす必要があります。
- 自己申告制の対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと
- 実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、講ずべき措置について十分な説明を行うこと
- 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること
- 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること
- 自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと
出勤簿の記録方法の種類
出勤簿の記録方法には、以下のようなものがあります。
- タイムカード
- 最も一般的な方法です。タイムレコーダーにカードを挿入することで、始業・終業時刻が自動的に打刻されます。
- ICカード・生体認証
- 入退室管理システムと連動したICカードや、指紋認証・顔認証などの生体認証システムによる記録方法です。
- PCのログ記録
- パソコンのログオン・ログオフ時刻を記録する方法です。ただし、パソコンを起動した時刻と実際の業務開始時刻、パソコンをシャットダウンした時刻と実際の業務終了時刻が必ずしも一致しないため、補正が必要な場合があります。
- クラウド勤怠管理システム
- スマートフォンやパソコンから打刻できるクラウド型の勤怠管理システムです。テレワーク時の記録にも対応しやすく、近年増加しています。ただし、設定方法が複雑なシステムもあり、専任の担当がいない小規模企業には向かない場合があります。
- 手書きの出勤簿
- 従業員が自ら始業・終業時刻を記入する方法です。小規模な事業場では今でも使用されていることがありますが、客観性に欠けるため、あまり推奨されません。
出勤簿の様式
出勤簿の様式は、法令上定められていません。
しかし、様式は問題ではありません。重要なのは、必要な記録事項(出勤日、始業時刻、終業時刻、休憩時間)が記録されているかどうかです。
タイムカードや勤怠管理システムを利用している場合で、それらの記録が出勤簿としての要件を満たしていれば、別途出勤簿を作成する必要はありません。
出勤簿の保存期間
出勤簿は、最後の記入をした日を起点として5年間の保存義務があります(ただし、経過措置として、現在は3年間の保存で足ります)。
例えば、2024年12月分の出勤簿であれば、最後の記入日は2024年12月31日(または2025年1月初旬に記入した場合はその日)となり、その日から5年間(当分の間は3年間)保存する必要があります。
出勤簿の作成・運用時の注意点
1分単位での記録
労働時間は、1分単位で記録し、1分単位で計算する必要があります。
15分単位や30分単位で切り捨てる処理は、労働基準法違反となります。例えば、8時57分に出勤した場合、9時00分と記録するのではなく、8時57分と記録する必要があります。
ただし、1か月の合計労働時間を計算する際に、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる処理は認められています。これは、個々の日の労働時間ではなく、1か月の合計での処理だからです。
タイムカード打刻と実労働時間の乖離
タイムカードを打刻した後に残業をしていたり、打刻前に業務を開始していたりするケースはよく聞きますが、これは違反です。
タイムカードの打刻時刻と実際の労働時間が異なる場合は、実際の労働時間を記録しなければなりません。例えば、パソコンのログ記録、入退室記録、上司による確認などを組み合わせて、実態をきちんと把握する必要があります。
自己申告制の不適正使用
自己申告制を採用している場合、以下のような不適正な運用がよく見られます。
- 時間外労働の上限を設定し、それを超える申告を認めない
- 実際には残業しているのに、申告させない
- 形式的に申告させているだけで、実態調査を行っていない
これらは労働基準法違反となり、未払い残業代が発生することになります。自己申告制を採用する場合は、前述の要件を満たす必要があります。
休憩時間の記録漏れ
休憩時間が記録されていないケースも多々あります。休憩時間を除いた時間が実労働時間となるため、休憩時間の記録は必須です。
特に、昼休み以外の休憩時間があるのであれば、その記録もしておく必要があります。記録していなければ客観的な証明ができないため、労働時間とみなされるリスクが高まります。
管理監督者の記録漏れ
管理監督者について、出勤簿の記録が不要だと誤解している会社があります。
前述のとおり、管理監督者であっても労働時間の状況把握は必要です。労働安全衛生法の観点からも、長時間労働による健康障害を防止するため、労働時間の把握は不可欠です。
PCログと実労働時間の関係
パソコンのログオン・ログオフ時刻を労働時間として記録している会社がありますが、これには注意が必要です。
パソコンを起動してすぐに業務を開始するとは限りませんし、パソコンをシャットダウンした後も業務が続くこともあります。また、昼休みにパソコンをつけっぱなしにしていることもあります。
PCログはあくまで参考情報であり、実際の労働時間と照合して補正する必要があります。
直行直帰の場合の記録
営業職など、直行直帰が多い従業員の労働時間管理は難しいとされていますが、だからといって記録しなくて良いわけではありません。
スマートフォンから打刻できる勤怠管理システムを導入するか、メールやチャットで始業・終業時刻を報告させるなど、何らかの方法で記録する必要があります。
まとめ
出勤簿は、労働時間管理の基礎となる重要な法定帳簿です。
近年、働き方改革関連法の施行により、労働時間の客観的な把握が義務化され、出勤簿の重要性はますます高まっています。タイムカードや勤怠管理システムを導入していても、打刻時刻と実労働時間が乖離していたり、自己申告制が不適切に運用されていたりすれば、法令違反となり、未払い残業代の問題にもつながります。
適正な出勤簿の記録は、従業員の健康管理、適正な賃金支払い、そして法令遵守のために不可欠です。
この機会に、自社の出勤簿の記録方法が適切かどうかを一度チェックしてみてください。