賃金台帳は、労働基準法で作成・保存が義務づけられている法定帳簿です。
労働基準監督署の監督指導でも必ずチェックされる重要書類です。しかし、筆者の経験上、必須項目が記載されていない台帳を使用している会社が意外と多いのが実情です。
今回は、賃金台帳の記載事項、保存期間、実務上の注意点について詳細に解説します。
なお、人事労務における法定3帳簿とは、
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 出勤簿
とされていますが、法的な定義はなく「そう呼ばれている」程度のことです。
賃金台帳とは
賃金台帳とは、労働基準法第108条により作成・保存が義務づけられている法定帳簿です。
この条文のポイントは、
- 事業場ごとに作成すること
- 賃金支払の都度、遅滞なく記入すること
です。本社以外に支店などがある場合は、各事業場で作成・保管する必要があります。違反した場合は、同法第120条により30万円以下の罰金という罰則まである強行法規であるため、注意が必要です。
- 労働基準法第108条(賃金台帳)
- 使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。
賃金台帳の必須記載項目
賃金台帳の具体的な記載事項は、労働基準法施行規則第54条により、労働者各人別に以下の事項を記入しなければならないと定められています。以下の記載事項に不足があれば法令違反となりますので、十分な注意が必要です。
- 氏名
- 性別
- 賃金計算期間
- 労働日数
- 労働時間数
- 時間外労働時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数
- 基本給、手当その他賃金の種類ごとにその額
- 控除項目がある場合はその額
時間外労働時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数については、労働時間数の内数として記載する必要があります。例えば、ある月の総労働時間数が180時間で、そのうち時間外労働が20時間であれば、両方を記載してください。
賃金台帳の作成対象者
賃金台帳は、すべての労働者の分を作成しなければなりません。正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員、嘱託など、会社がどのような雇用区分を設定していても、雇用区分に関わらずすべてです。
日雇労働者の場合
日雇労働者の場合、労働者名簿の作成は不要ですが、賃金台帳の作成は必要です。この点は見落としがちなので注意してください。
管理監督者の場合
部門長など管理監督者の賃金台帳については、時間外労働や休日労働の時間数は記載不要です。これは、管理監督者には労働基準法第41条により労働時間に関する規定が適用除外されるためです。
しかし、深夜労働の時間数は記載する必要があります。管理監督者であっても深夜労働(午後10時から午前5時までの労働)の割増賃金は支払う必要があるためです。
役員の場合
役員はそもそも労働者ではないので、賃金台帳の作成は不要です。
ただし、兼務役員の場合は、労働者部分の賃金について作成が必要です。例えば、取締役営業部長という肩書きで、実質的に営業部長としての業務に従事し、その部分について賃金の支払いを受けている場合は、労働者部分について賃金台帳を作成する必要があります。
賃金台帳の保存期間と管理方法
賃金台帳の保存期間
賃金台帳は、最後の記入をした日を起点として5年間の保存義務があります(ただし、経過措置として現在は、当分の間は3年間の保存で足ります)。
賃金台帳の管理方法
必ずしも紙で保管する必要はなく、PCによる管理方法も認められています。ただし、労働基準監督署から求められたときには、すぐに表示・印刷できることが条件となっているのでご注意ください。
また、賃金台帳は各事業場で作成・保管することになっています。本社で一括して作成する場合は、事業場ごとにまとめておき、各事業場に配布しておく方法もありえます。
賃金台帳と給与台帳・給与明細の違い
よくある質問が、給与台帳や給与明細で代替できるかというものですが、大半の場合は代替不可です。
賃金台帳と給与明細との違い
法定の記載項目を満たしていれば名称は何でも構わないのですが、一般的に給与明細には以下の項目が記載されていません。
- 賃金計算期間
- 労働日数
- 労働時間数
そのため、給与明細書に上記の必須項目がすべて記載されていれば賃金台帳として使用することも可能ですが、実際にはこれらの項目が含まれていないことが多く、そのままでは代替できません。
賃金台帳と給与台帳との違い
給与台帳の場合には、記載項目以前に以下の大きな違いがあります。
- 賃金台帳:労働者ごとにまとめられたもの
- 給与台帳:月ごとにまとめられたもの
賃金台帳は、労働者各人別に調製することが法律で求められているため、月ごとに全社員分をまとめた給与台帳では要件を満たしません。
賃金台帳の様式
賃金台帳の様式は法定されていません。
重要なのは、記載事項を満たしているかどうかであり、その旨は、以下のとおり、労働基準法施行規則第59条の2で定められています。
- 労働基準法施行規則第59条の2
- 法及びこれに基く命令に定める許可、認可、認定若しくは指定の申請、届出、報告、労働者名簿又は賃金台帳に用いるべき様式(様式第24号を除く。)は、必要な事項の最少限度を記載すべきことを定めるものであつて、横書、縦書その他異なる様式を用いることを妨げるものではない。
市販の給与計算ソフトを利用していれば、賃金台帳の出力機能があるはずです。ただし、ソフトを利用している場合でも、出力される帳票が法定要件を満たしているかどうかを一度確認しておくことをお勧めします。
賃金台帳の作成・運用時の注意点
月給制の従業員の労働時間数の記載漏れ
給与計算ソフトを使用していても、月給制の従業員について労働時間数を記載していないケースがあります。月給制であっても、労働日数と労働時間数の記載は必須です。
必須の記載項目なので記載されていなければそれ自体が法違反ですし、なにより労働日数が不適切に記載されていれば、割増賃金の計算を間違ってしまいます。
時間外労働時間数等の記載方法
時間外労働時間数等については、労働時間数の内数として記載する必要があります。総労働時間数だけでなく、その内訳として時間外・休日・深夜の各時間数を明確に記載してください。
割増賃金の計算誤り
記載事項がすべて揃っていても、最も重要なことは正しく記載されているかどうかです。特に、時間外労働や休日労働の時間数、それに基づく割増賃金額の計算について、不慣れな担当者の場合よく間違っています。