労働者名簿の記載事項・保存期間・実務上の注意点

作成:
更新:

人事労務における法定3帳簿の1つである「労働者名簿」を作成していますか? 作成している場合でも記載項目・記載内容は適切なものになっていますか?

労働基準監督署による監督指導でも必ずチェックされる重要書類なのできちんと作成、そして情報が更新されているか確認しておいてください。

なお、人事労務における法定3帳簿とは、

  • 労働者名簿
  • 賃金台帳
  • 出勤簿

とされていますが、法的な定義はなく「そう呼ばれている」程度のことです。

Qちゃん
労働者名簿って、従業員一覧とよく混同されていますよね。
A先生
はい。賃金台帳や出勤簿を作成していない会社は珍しいですが、労働者名簿の作成は忘れられがちです。

関連:賃金台帳の記載事項・保存期間・実務上の注意点

労働者名簿の定義

労働者名簿とは、労働基準法第107条によって企業に作成が義務づけられている法定帳簿です。

違反した場合は、同法第120条により30万円以下の罰金という罰則まである強行法規です。記入漏れや記入ミスに注意が必要です。

また、労働者名簿は作成して終わりではありません。変更があれば修正し、常に「最新の情報」にしておく必要もあります。

労働基準法第107条(労働者名簿)
  1. 使用者は、各事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日日雇い入れられる者を除く。)について調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければならない。
  2. 前項の規定により記入すべき事項に変更があつた場合においては、遅滞なく訂正しなければならない。

労働者名簿の対象者

労働者名簿を作成する対象者は、日雇い労働者以外のすべての労働者です。

つまり、正社員だけではなく、契約社員、パート、アルバイトなど、雇用しているすべての労働者が含まれます

パートやアルバイトの労働者名簿の作成も義務です。忘れがちなのでご注意ください。

作成しなくても良いのは、日雇い労働者だけです。

Qちゃん
派遣労働者はどうなんですか?
A先生
雇用している派遣元の企業の義務になります。そのため、派遣先には労働者名簿の作成義務はありません。

労働者名簿の記載事項

労働者名簿への記載事項は以下のとおりです。不備があれば法令違反になります。

  • 労働者の氏名
  • 生年月日
  • 履歴
  • 性別
  • 住所
  • 従事する業務の種類
  • 雇入の年月日
  • 退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)
  • 死亡の年月日及びその原因
労働基準法施行規則第53条
労働者名簿(様式第19号)に記入しなければならない事項は、同条同項に規定するもの(注:労働者の氏名、生年月日、履歴)のほか、次に掲げるものとする。
  1. 性別
  2. 住所
  3. 従事する業務の種類
  4. 雇入の年月日
  5. 退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)
  6. 死亡の年月日及びその原因

労働者名簿の様式

労働者名簿として、厚生労働省は、以下の「様式第19号」を示していますが、この様式に従う必要はありません

重要なのは、記載事項を満たしているかどうかであり、その旨は、以下のとおり、労働基準法施行規則第59条の2で定められています。

労働基準法施行規則第59条の2
法及びこれに基く命令に定める許可、認可、認定若しくは指定の申請、届出、報告、労働者名簿又は賃金台帳に用いるべき様式(様式第24号を除く。)は、必要な事項の最少限度を記載すべきことを定めるものであつて、横書、縦書その他異なる様式を用いることを妨げるものではない。
Qちゃん
今どき、縦書きはさすがにないですよね・・・

労働者名簿の保存期間

労働者名簿の保存期間は、

  • 労働者の退職、解雇又は死亡の日を起点として、5年間(当面は3年間の経過措置あり)

です。入社日が起点ではなく、退職、解雇又は死亡日が起点であることにご注意ください

関連:人事労務関係の書類の保存期間

労働者名簿の作成・運用時の注意点

様式を見ていただくとわかりますが、労働者名簿の作成はそれほど難しいものではありません。ただし、いくつか作成・運用時の注意点がありますので解説しておきます。

従事する業務の種類の記入ミス

「従事する業務の種類」には、営業、企画、総務など、その従業員が担う業務の種類を記入します。

Qちゃん
「従事する業務の種類」はどこまで細かく書くべきなのでしょうか?
A先生
労働条件通知書または雇用契約書の記入内容と連動させておけば良いです。

この欄に「正社員」「パート」などの雇用区分を記入していた会社を見たことがありますが、それは間違いです。

なお、30人未満の事業場に関しては「従事する業務の種類」を記入する義務はありません。

住所変更の更新漏れ

労働基準法第107条第2項のとおり、

  • 労働者名簿は最初に作成して終わり

ではなく、変更があった場合には更新が必要です。従業員の「住所」が変更された場合は労働者名簿の更新を忘れずにしておきましょう。

退職者の名簿の破棄

前述のとおり、労働者名簿の保存期間は、労働者の退職、解雇又は死亡の日を起点として、5年間(当面は3年間の経過措置あり)です。

退職したからといってすぐに廃棄してはいけません。

履歴が空白のまま

「履歴」欄が空白のままという状態を見かけますが、履歴には、

  • 所属部署の異動状況
  • 出向などの配転状況
  • そのときの業務内容 など

を記入してください。履歴の記入例は以下のとおりです。

  • ○年○月○日 営業部配属
  • ○年○月○日 総務部へ異動
  • ○年○月○日 ○○株式会社へ出向
Qちゃん
なぜ、履歴が重要なんですか?
A先生
「従事する業務の種類」にも関係しますが、部署や業務内容を記録しておくことで、危険業務を行った経歴があるのかを後々確認できるようにしておくためです。

デジタル管理の要件

今はデジタル時代ですから、労働者名簿を紙ではなく、PCで作成し保存しておくことは可能です。ただし、厚生労働省の「労務関係の書類をパソコンで作成して保存したいのですが、可能でしょうか」によると、以下の要件を満たす必要があると示されています。

  • 法令で定められた要件を具備し、かつそれを画面上に表示し印字することができること。
  • 労働基準監督官の臨検時等、直ちに必要事項が明らかにされ、提出し得るシステムとなっていること。
  • 誤って消去されないこと。
  • 長期にわたって保存できること。
Qちゃん
人事労務系のソフトには、大体、労働者名簿の作成機能がありますよね。
A先生
はい、ソフトを使っているなら、それで十分です。作成だけでなく更新を忘れないようにしましょう。
up_line