「退職金はいくら払うのが相場なのか?」「自己都合で辞める人の退職金はどのくらいか?」、これらは退職金制度を設けるときや見直すときによく出てくる話題です。
退職金は、賃金や賞与と比べて一度に支払う額が大きく、退職の場面でトラブルになりやすいものです。自社の水準が世間と比べてどうなのかを、データで確認しておくことが重要です。
今回は、東京都が2024年(令和6年)12月に公表した「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」をもとに、従業員10〜299人の中小企業の退職金相場を、勤続年数別・学歴別、自己都合と会社都合に分けて紹介します。
まず結論として、学校を卒業してすぐに入社し、定年まで勤めた場合の退職金(モデル退職金)は次のとおりです。
- 高校卒:974万円
- 高専・短大卒:992万円
- 大学卒:1,150万円
大学卒と高校卒の差は、約180万円です。どの学歴でも、定年時の退職金はおおむね1,000万円前後となっています。


調査の概要とモデル退職金の見方
この調査は、東京都が毎年行っているもので、退職金は2年に1度の調査項目です。令和6年版の概要は次のとおりです。
- 調査時点:令和6年7月31日
- 対象:都内の中小企業3,500社(集計659社)
- 対象の規模は業種によって異なる(建設業・製造業などは従業員30〜299人、卸売業・小売業や医療・福祉などは10〜99人)
この調査の「モデル退職金」は、学校を卒業してすぐに入社し、普通の能力と成績で勤務した場合の退職金の水準を、各社に回答してもらったものです。実際に支払った額の平均ではないという点にご注意ください。
また、退職金の額を、その時点のモデル所定時間内賃金(月例賃金)で割った「支給月数」も示されています。退職金を「基本給の何か月分」という形で設計している会社は、この月数と比べると自社の水準がわかります。
なお、モデル退職金を回答した企業は、学歴・勤続年数ごとに100〜140社程度です。項目ごとに回答した企業が異なるため、数値がなめらかに増えていない箇所もあります。ただ、中小企業に特化した調査という珍しいものであるため、よく注目されているデータです。
学歴別・勤続年数別のモデル退職金
会社都合で退職した場合のモデル退職金を、学歴別・勤続年数別にグラフにしたのが次です。
以下はグラフを表示しています。
もしグラフが表示されていない場合はページの更新をしてください。
このグラフから、次のことがわかります。
- 勤続10年では、どの学歴でも126万〜153万円にとどまる
- 勤続20年を超えると、増え方が大きくなる
- 定年時は、高校卒974万円、高専・短大卒992万円、大学卒1,150万円
前回の令和4年版と比べると、定年時の額は、大学卒が1,092万円から1,150万円(5.3%増)、高専・短大卒が983万円から992万円(0.9%増)、高校卒が994万円から974万円(2.0%減)となりました。
学歴ごとの詳しい数値は、次の表のとおりです。定年時の額は、会社都合退職の欄に示しています。
高校卒のモデル退職金
| 勤続年数(年齢) | 自己都合退職 | 会社都合退職 | 支給月数(会社都合) |
|---|---|---|---|
| 1年(19歳) | 63千円 | 97千円 | 0.5か月 |
| 3年(21歳) | 196千円 | 266千円 | 1.3か月 |
| 5年(23歳) | 397千円 | 513千円 | 2.3か月 |
| 10年(28歳) | 985千円 | 1,264千円 | 5.0か月 |
| 15年(33歳) | 1,903千円 | 2,373千円 | 8.6か月 |
| 20年(38歳) | 2,881千円 | 3,428千円 | 11.1か月 |
| 25年(43歳) | 4,342千円 | 5,100千円 | 15.2か月 |
| 30年(48歳) | 5,757千円 | 6,570千円 | 18.1か月 |
| 35年(53歳) | 7,008千円 | 7,905千円 | 20.4か月 |
| 37年(55歳) | 7,398千円 | 8,419千円 | 21.0か月 |
| 定年 | ― | 9,741千円 | 23.5か月 |
高専・短大卒のモデル退職金
| 勤続年数(年齢) | 自己都合退職 | 会社都合退職 | 支給月数(会社都合) |
|---|---|---|---|
| 1年(21歳) | 59千円 | 97千円 | 0.5か月 |
| 3年(23歳) | 209千円 | 282千円 | 1.3か月 |
| 5年(25歳) | 406千円 | 516千円 | 2.2か月 |
| 10年(30歳) | 1,021千円 | 1,528千円 | 5.8か月 |
| 15年(35歳) | 1,856千円 | 2,270千円 | 7.8か月 |
| 20年(40歳) | 3,035千円 | 3,578千円 | 10.9か月 |
| 25年(45歳) | 4,373千円 | 5,099千円 | 14.3か月 |
| 30年(50歳) | 5,822千円 | 6,635千円 | 17.2か月 |
| 35年(55歳) | 7,217千円 | 8,153千円 | 19.9か月 |
| 定年 | ― | 9,920千円 | 23.5か月 |
大学卒のモデル退職金
| 勤続年数(年齢) | 自己都合退職 | 会社都合退職 | 支給月数(会社都合) |
|---|---|---|---|
| 1年(23歳) | 55千円 | 96千円 | 0.4か月 |
| 3年(25歳) | 215千円 | 304千円 | 1.3か月 |
| 5年(27歳) | 432千円 | 574千円 | 2.3か月 |
| 10年(32歳) | 1,125千円 | 1,448千円 | 5.0か月 |
| 15年(37歳) | 2,093千円 | 2,559千円 | 8.1か月 |
| 20年(42歳) | 3,468千円 | 4,081千円 | 11.6か月 |
| 25年(47歳) | 5,073千円 | 6,156千円 | 15.8か月 |
| 30年(52歳) | 7,507千円 | 7,762千円 | 18.4か月 |
| 33年(55歳) | 7,968千円 | 8,897千円 | 20.2か月 |
| 定年 | ― | 11,495千円 | 24.9か月 |
自己都合と会社都合の差
大学卒について、自己都合退職と会社都合退職のモデル退職金を、勤続年数ごとに比べたのが次のグラフです。
自己都合退職の額を会社都合退職の額で割ると、次のようになります。
- 勤続3年:高校卒74%、大学卒71%
- 勤続10年:高校卒78%、大学卒78%
- 勤続20年:高校卒84%、大学卒85%
- 勤続30年:高校卒88%、大学卒97%
勤続年数が短いほど、自己都合退職で減らされる割合が大きくなっています。一方で、金額の差は勤続年数が長いほど大きくなり、大学卒の勤続33年(55歳)では約93万円の差があります。


自己都合で退職した場合に、退職一時金を受け取るために必要な最低勤続年数も調査されています。退職一時金制度がある企業では、「3年」が47.3%で最も多く、「1年」が14.2%、「2年」が11.6%でした。
「4年」(3.3%)と「5年以上」(11.4%)を合わせると、最低勤続年数を3年以上としている会社は6割を超えます。
なお、退職をめぐる労働相談の傾向は、次の記事で紹介しています。
関連:【データ】労働相談件数の推移と相談内容 ─ いじめ・嫌がらせ・自己都合退職・解雇(令和7年度)
年齢より勤続年数が重視
この調査からは、退職金が年齢や学歴よりも勤続年数で決まる傾向がわかります。
例えば、高校卒で勤続15年(33歳)の場合の退職金は、次のとおりです。
- 自己都合退職:190万円
- 会社都合退職:237万円
ほぼ同じ年齢の、大学卒で勤続10年(32歳)の場合は、次のとおりです。
- 自己都合退職:113万円
- 会社都合退職:145万円
年齢がほぼ同じでも、勤続年数が5年長い高校卒のほうが、80万〜90万円ほど高くなっています。
この傾向は、中高年になっても続きます。高校卒で勤続30年(48歳)と大学卒で勤続25年(47歳)を比べても、自己都合・会社都合のどちらでも高校卒のほうが高くなっています。
企業規模別・業種別の状況
企業規模別の定年時のモデル退職金
定年時のモデル退職金(会社都合)を、企業規模別に比べたのが次のグラフです。
- 大学卒は、10〜49人で1,088万円、50〜99人で1,097万円、100〜299人で1,446万円
- 100〜299人の企業では、どの学歴でも1,000万円を超える
ただし、100〜299人の企業の回答は学歴ごとに15〜20社と少なく、幅を持って見る必要があります。50〜99人の高校卒が10〜49人を下回っているのも、回答した企業の違いによるものと考えます。
退職金制度がある企業の割合
そもそも退職金制度がある企業は、全体の64.2%でした。3社に1社は退職金制度がありません。
規模別にみると、10〜49人が62.0%、50〜99人が63.3%、100〜299人が83.3%です。
業種別に、退職金制度がある企業の割合を高い順に並べたのが次のグラフです。調査産業計(全体)を赤、全体を超える業種を黄、全体以下の業種を青で示しています。
- 製造業(87.1%)、建設業(76.1%)は全体を上回る
- 医療、福祉(42.9%)、宿泊業、飲食サービス業(39.0%)、学術研究、専門・技術サービス業(34.1%)は半数を下回る
なお、前述のとおり業種によって調査対象の規模が異なります。医療、福祉などは10〜99人の企業だけが対象です。


全国の退職金(厚生労働省 就労条件総合調査)
全国のデータとしては、厚生労働省の「就労条件総合調査」があります。退職給付の支給実態は5年に1度の調査項目で、最新は令和5年調査です。
この調査は、従業員30人以上の企業を対象に、令和4年の1年間に退職した勤続20年以上かつ45歳以上の人に支払った退職給付(退職一時金と退職年金の現価の合計)の1人平均を集計したものです。
| 退職事由 | 大学・大学院卒(管理・事務・技術職) | 高校卒(管理・事務・技術職) | 高校卒(現業職) |
|---|---|---|---|
| 定年 | 1,896万円 | 1,682万円 | 1,183万円 |
| 会社都合 | 1,738万円 | 1,385万円 | 737万円 |
| 自己都合 | 1,441万円 | 1,280万円 | 921万円 |
| 早期優遇 | 2,266万円 | 2,432万円 | 2,146万円 |
退職給付制度がある企業の割合は74.9%で、従業員30〜99人の企業では70.1%でした。
この数値は、東京都のモデル退職金とそのまま比べることはできません。主な違いは次のとおりです。
- 東京都の調査はモデル退職金(想定額)、厚生労働省の調査は実際に支払った額
- 厚生労働省の調査は、従業員1,000人以上の大企業も含む
- 厚生労働省の調査は、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者に限られ、退職事由ごとに勤続年数の分布も異なる
高校卒(現業職)で会社都合が自己都合を下回っているのも、退職者の勤続年数の分布が異なるためと考えられます。


退職金規程で確認したいこと
ここまでで見た「自己都合と会社都合の差」や「最低勤続年数」は、どれも法律で決まっているものではなく、各社が退職金規程で定めているものです。
退職金制度を設けるかどうかは会社の自由ですが、就業規則に定めた場合は、その内容に従って支払う義務が生じます。就業規則で退職手当を定める場合は、次の事項を記載しなければなりません。
- 労働基準法第89条(抜粋)
- 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
(略)
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
自己都合と会社都合の差は定め方次第
退職金制度を設けている場合、退職理由ごとの支給率などを定めていなければ、自己都合で辞めた人の退職金を会社の判断だけで減らすことはできません。
また、どのような退職を自己都合とし、どのような退職を会社都合とするかの区分についても就業規則で明確にしておかなければトラブルの元です。
受け取るのに必要な最低勤続年数
最低勤続年数も定めがあって初めて効力を持ちます。定めがなければ、勤続年数が短い人であっても支払うことになりかねません。
中退共では退職理由による差をつけられない
退職一時金の支払いに備える方法(複数回答)は、社内準備が59.2%、中小企業退職金共済制度(中退共)が50.9%、退職金保険が10.1%、特定退職金共済制度が6.8%でした。
退職一時金制度がある会社の約半数が、中退共を利用していることになります。
中退共の退職金は、中退共から従業員に直接支払われ、その額は掛金月額と納付月数で決まります。ここで注意が必要なのは、次の点です。
- 退職理由が自己都合か会社都合かで、中退共から支払われる額は変わらない。
- 懲戒解雇の場合は、厚生労働大臣の認定を受けて減額できるが、全額を減額することはできない。また減額した分は会社に戻らない。
- 中退共からの退職金が会社が定めた額を上回っても、その差額を会社が受け取ることはできない。
つまり、退職金規程で「自己都合退職は減額する」と定めていても、中退共だけで積み立てている場合は、その差をつけることができません。


退職金規程を定めた場合の支払義務、給付建てと拠出建て(中退共)の違い、減額・廃止するときの注意点、懲戒解雇の場合の扱いは、次の記事で解説しています。
関連:退職金制度とは? 支払義務・給付建てと拠出建て(中退共)・不利益変更・懲戒解雇時の不支給
まとめ
データからわかる事実は、次のとおりです。
- 定年時のモデル退職金は、高校卒974万円、大学卒1,150万円で、どの学歴でも1,000万円前後
- 勤続3年以降では、自己都合退職の額は会社都合退職のおおむね7〜9割で、勤続年数が短いほど減らされる割合が大きい
- 退職金は、学歴や年齢よりも勤続年数で決まる面が強い
- 退職金制度がある会社は64.2%で、製造業では87.1%、医療、福祉では42.9%
- 退職一時金制度がある会社の約半数が中退共を利用しているが、中退共の退職金は退職理由で変わらない
自社の退職金が相場より高いか低いかも気になるところですが、それ以上に重要なのは、退職金規程に書いてある内容と、実際の支払い方や積立の方法が一致しているかです。
退職金をめぐるトラブルは、従業員が辞めるとき、それも円満とはいえない辞め方をするときに起こります。そのときに退職金規程の内容が曖昧だったり、積立の方法と合っていなかったりすると、会社の考えどおりに支払うことはできません。
当事務所の場合
退職金規程が問題になるのは、従業員が辞めるときです。退職金規程を定めたときに想定していなかった辞め方をする人が出てきて、初めて内容の不備に気づく会社は少なくありません。
あべ社労士事務所の代表社労士は、厚生労働省労働基準局で労働基準法令・労働安全衛生法令の政策立案に従事してきました。当事務所の就業規則の作成・修正では、退職金規程についても、退職理由ごとの扱いや積立の方法との整合を含めて確認します。
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