Q:就業規則と雇用契約書の内容が違う場合、どちらが優先されるか?
A:従業員にとって有利な方が優先される。雇用契約書の内容が就業規則の基準に達していなければ、その部分は無効となり、就業規則の基準による。雇用契約書の内容の方が有利であれば、雇用契約書による。
就業規則と雇用契約書(労働条件通知書)は、どちらも労働条件を定める書類ですが、この2つの内容が異なる場合、どちらが適用されるのでしょうか。
実は、就業規則と雇用契約書の内容に相違があること自体に、会社が気づいていないことが少なくありません。
内容に相違が生じる場面
就業規則と雇用契約書の内容は、次のような場面で相違が生じます。
- 就業規則を改定したが、雇用契約書の様式は古いまま使い続けている
- 採用のときに、個別に条件を決めた従業員がいる
- 雇用契約書を作るときに、記載を誤った
よくある例:所定労働時間が8時間未満の会社
所定労働時間が7時間45分の会社を例に考えます。
就業規則には「所定労働時間を超えて労働した時間に、割増賃金を支払う」と定めている。一方、雇用契約書には「法定労働時間(1日8時間)を超えて労働した時間に、割増賃金を支払う」と書かれている。
この場合、所定労働時間の7時間45分を超えた15分(8時間までの分)について、
- 就業規則では割増賃金が必要
- 雇用契約書では割増賃金は不要
という扱いになります。どちらによるのかで支払う賃金額が変わるという問題が生じます。
関連:雇用契約書・労働条件通知書の割増賃金率の書き方 ─ 25%か125%か


雇用契約書の方が不利な場合
雇用契約書の内容が、就業規則の基準に達していない場合は、次の条文によります。
- 労働契約法第12条(就業規則違反の労働契約)
- 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
就業規則の基準に達しない部分は無効になり、就業規則の基準が適用されます。就業規則は、その会社の労働条件の最低基準として働くということです。
先程の例では、雇用契約書の「法定労働時間を超えた時間に割増賃金を支払う」という部分は、就業規則の基準に達していません。そのため、就業規則の定めどおり、所定労働時間を超えた15分にも割増賃金が必要になります。
雇用契約書の方が有利な場合
反対に、雇用契約書の内容の方が従業員にとって有利な場合は、雇用契約書の内容によります。
- 労働契約法第7条
- 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
ただし書にあるとおり、就業規則と異なる労働条件を個別に合意した部分は、就業規則の基準を下回らないかぎり、その合意が優先されます。
雇用契約書と就業規則の優先順位の整理
| 雇用契約書の内容 | 適用される労働条件 | 根拠 |
|---|---|---|
| 就業規則の基準に達しない | 就業規則の内容 | 労働契約法第12条 |
| 就業規則より有利 | 雇用契約書の内容 | 労働契約法第7条ただし書 |


労働基準法との関係
当然の話ではありますが、就業規則も雇用契約書も、労働基準法の基準を下回ることはできません。
- 労働基準法第13条(この法律違反の契約)
- この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。
就業規則の基準どおりの雇用契約であっても、その内容が労働基準法の基準に達していなければ、その部分は無効になります。最低賃金法で定める最低賃金についても同様です。
なお、労働組合のある会社では、労働協約との関係も問題になります。
実務でよく起こる悩ましい問題
ここまで解説したとおり、条文の原則は明確です。
しかし実務では、原則を当てはめるだけでは答えが出ない問題がよく生じます。例えば、次のような場合です。
- 就業規則を変更した後、変更前の条件で結んでいた個別の契約がある場合
- 雇用契約書では「就業規則第XX条のとおり」と書いてあるのに、就業規則が古くて該当する定めがない場合
- 雇用契約書と就業規則で、始業・終業時刻が異なる場合
いずれも、書類の文言だけでなく、それぞれの書類がいつ、どのような経緯で作られたか、そして実際にどう運用されてきたかに照らして、個別に判断することになります。
書類の内容をそろえておくために
書類の相違は、気づかないまま何年も続くことがあります。
そして、従業員から請求を受けたり、労働基準監督署の調査を受けたりして、はじめて明らかになることが多いのが実情です。
そのため、次の点を日頃から意識しておくことが重要です。
- 就業規則を改定したときは、雇用契約書や労働条件通知書の様式も見直す
- 個別に条件を決めた場合は、その内容を書面に残す
- 就業規則と雇用契約書を、同じ考え方の表記でそろえる
当事務所の場合
あべ社労士事務所の代表社労士は、厚生労働省労働基準局で労働基準法令・労働安全衛生法令の政策立案に従事してきました。
就業規則と雇用契約書の相違は、両方の書類を並べて読まないと見つかりません。当事務所の労務監査では、就業規則、労働条件通知書、雇用契約書を突き合わせ、各書類の内容が一致しているかも確認します。
就業規則と雇用契約書の内容が一致しているか確かめるなら
経営労務診断基準の51項目と独自の労働安全衛生法の点検項目に沿って、厚生労働省労働基準局出身の代表社労士自らが点検します。
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