Q:社労士(社会保険労務士)はどんな業務をしているのか?
A:大きく分けると「手続き業務」と「相談・コンサル業務」をしている社労士が多い。また企業向けを専門とする社労士もいれば、個人向けを専門とする社労士もいる。


社会保険労務士法に基づく国家資格
社労士は、社会保険労務士法に基づく国家資格です。
社労士法は、第1条で社労士の「使命」を、第1条の2で「職責」を定めています。
社労士の使命
第1条の使命の規定は、2025年(令和7年)10月1日に施行された改正社会保険労務士法(令和7年法律第77号)により、それまでの「目的」の規定に代えて設けられたものです。
- 社労士法第1条(社会保険労務士の使命)
- 社会保険労務士は、労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施を通じて適切な労務管理の確立及び個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成に寄与することにより、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上並びに社会保障の向上及び増進に資し、もつて豊かな国民生活及び活力ある経済社会の実現に資することを使命とする。
条文が長いので、社労士が何をする立場なのかを順序どおりに整理すると、以下のとおりです。
- 労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施を通じて
- 適切な労務管理の確立と、個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成に寄与し
- それにより、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上、社会保障の向上及び増進に資する
つまり、労働環境を適正に整えることを通じて、事業の健全な発達に至るという順序が、法律そのものに書かれています。単なる手続きの代行者ではなく、労務管理と労働環境を適正に整える立場として、法律が社労士を位置づけているわけです。


社労士の職責
社労士法は、この使命に続けて、社労士の「職責」を定めています。
- 社労士法第1条の2(社会保険労務士の職責)
- 社会保険労務士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正な立場で、誠実にその業務を行わなければならない。
公正な立場が求められている以上、経営者と労働者のどちらか一方に全面的に立つことは、社労士には認められていません。社労士法や労働社会保険諸法令に違反したときは、厚生労働大臣による懲戒処分(戒告、1年以内の業務の停止、失格処分)の対象になります。


社労士(社会保険労務士)の業務
1号・2号業務と3号業務
社労士の業務は、社労士法第2条、第2条の2に定められています(長いので条文は省略)。社労士業界では、この条文の号数にちなんで、業務を「1号業務」「2号業務」「3号業務」と呼び分けることが多いです。
| 区分 | 内容 | 社労士の独占業務か | 代表例 |
|---|---|---|---|
| 1号業務 | 労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成、提出代行、事務代理 | 独占業務 | 入退社に伴う社会保険の手続き、労働保険の年度更新、36協定の届出 |
| 2号業務 | 労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成 | 独占業務 | 就業規則、労働者名簿、賃金台帳 |
| 3号業務 | 労務管理その他の労働及び社会保険に関する事項についての相談・指導 | 独占業務ではない | 人事労務に関する相談、労務監査、人事制度の構築、社内研修 |
このうち、1号業務の一部である紛争解決手続の代理業務は、社労士の中でも「特定社労士」でなければ行えません。
大きく分けると、社労士は以下の2つの業務を行っていると言えます。
- 手続き業務:1号・2号業務
- 相談・コンサル業務:3号業務
このうち3号業務は独占業務ではないため、社労士以外の人が行っても社労士法違反にはなりません。逆に言えば、社労士にしかできないのは1号・2号業務だけということです。そして実際には、1号・2号業務を主に行っている社労士事務所が多数を占めます。
多くの社労士が行っている代表的な業務
昨今、多くの社労士が行っている代表的な業務は以下のとおりです。
- 労働保険・社会保険手続き業務
- 毎月の賃金計算業務
- 人事労務に関する相談業務
- 助成金の申請業務
- 就業規則の作成業務
- 人事制度(評価制度、等級制度、賃金・退職金制度)の構築業務
- 人材育成に関する研修・セミナー業務
これら以外にも、企業の人事労務管理が適切に運用されているかを点検する「経営労務診断」のような業務もあります。全国社会保険労務士会連合会が定めた基準に沿って企業の労務管理を点検するもので、当事務所の労務監査もこの基準を土台にしています。
すべてに対応できる社労士はいない
ここで注意していただきたいのは、この中のどこまでを1人の社労士が担えるのか、ということです。


毎年のように様々な労働法令が改正されています。
改正に追随しながら実務の水準を保てるのは、現実には1つか2つの分野です。そのため、社労士を選ぶときは「何ができると書いてあるか」ではなく、「何を専門にしているか」を確認するほうが確実です。


企業向けの社労士と個人向けの社労士
社労士の業務は、企業向けだけではありません。年金相談や障害年金の請求手続きなど、個人向けの業務を中心にしている社労士もいます。
数や比率までは分かりませんが、企業向けと個人向けでは、必要な知識も経験もまったく異なります。自社の労務管理について相談したいのであれば、企業向けの業務を主に行っている社労士を選ぶ必要があります。
社労士が扱う法令の範囲
社労士が関係する法律は、社労士法の別表第一に定められています。
これらはあくまで法律であり、法律の下には政令、省令、告示があり、場合によっては指針や通達まで確認して業務を行うことになります。
社労士の業務の範囲がいかに広いか、そして1人ですべてを扱うことがいかに難しいか、ご理解いただけるでしょう。
社労士の関係する法律一覧(クリックしたら開きます)
別表第一(第2条関係)
- 労働基準法
- 労働者災害補償保険法
- 職業安定法
- 雇用保険法
- 労働保険審査官及び労働保険審査会法
- 職業能力開発促進法
- 駐留軍関係離職者等臨時措置法
- 最低賃金法
- 中小企業退職金共済法
- 国際協定の締結等に伴う漁業離職者に関する臨時措置法
- じん肺法
- 障害者の雇用の促進等に関する法律
- 激甚じん災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律
- 労働災害防止団体法
- 港湾労働法
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
- 炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律
- 家内労働法
- 勤労者財産形成促進法
- 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
- 沖縄振興特別措置法
- 労働安全衛生法
- 作業環境測定法
- 建設労働者の雇用の改善等に関する法律
- 賃金の支払の確保等に関する法律
- 本州四国連絡橋の建設に伴う一般旅客定期航路事業等に関する特別措置法及び第二十条の規定に限る。)
- 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
- 地域雇用開発促進法
- 中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会の創出のための雇用管理の改善の促進に関する法律
- 介護労働者の雇用管理の改善等に関する法律
- 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
- 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律
- 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
- 林業労働力の確保の促進に関する法律
- 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
- 個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律
- 石綿による健康被害の救済に関する法律
- 次世代育成支援対策推進法
- 職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律
- 生活困窮者自立支援法
- 専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法
- 青少年の雇用の促進等に関する法律
- 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律
- 新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための雇用保険法の臨時特例等に関する法律
- 特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律
- 健康保険法
- 船員保険法
- 社会保険審査官及び社会保険審査会法
- 厚生年金保険法
- 国民健康保険法
- 国民年金法
- 年金生活者支援給付金の支給に関する法律
- 独立行政法人福祉医療機構法
- 石炭鉱業年金基金法
- 児童手当法
- 平成二十二年度等における子ども手当の支給に関する法律
- 平成二十三年度における子ども手当の支給等に関する特別措置法
- 高齢者の医療の確保に関する法律
- 介護保険法
- 前各号に掲げる法律に基づく命令
- 行政不服審査法
当事務所の場合
記事のとおり、社労士が扱う法令と業務は非常に広く、1人の社労士がそのすべてを高い水準で行うことはできません。
そこで、あべ社労士事務所は、給与計算、社会保険・労働保険の手続き業務、助成金業務を行いません。就業規則の作成・修正と労務監査に絞り、そこに時間を使っています。
当事務所の代表は、厚生労働省労働基準局で労働基準法令・労働安全衛生法令の政策立案に従事し、長野労働局監督課長として労働基準監督署を統括した経験を有します。手続きの代行ではなく、労務管理そのものをご相談いただく事務所とお考えください。
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