就業規則を労働基準監督署に届け出ていない。衛生管理者を選任していない。これらに罰則があることは、ご存じの方も多いと思います。
では、その罰則の条文が2025年(令和7年)6月1日に変わったことはご存じでしょうか。
2022年(令和4年)の刑法改正により、懲役と禁錮は「拘禁刑」に一本化されました。労働基準法も労働安全衛生法も、現在の条文に「懲役」という言葉は一つも残っていません。


拘禁刑とは
刑法に定められている主な刑罰(主刑)は、次のとおりです。
- 刑法第9条
- 死刑、拘禁刑、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。
改正前は、この中に「懲役」と「禁錮」が別々に置かれていました。両者の違いは刑務作業が義務付けられるかどうかで、懲役は作業が義務、禁錮は義務ではないという区別でした。
改正後の拘禁刑は、この区別をなくし、次のように定められています。
- 刑法第12条
- 拘禁刑は、無期及び有期とし、有期拘禁刑は、一月以上二十年以下とする。
2 拘禁刑は、刑事施設に拘置する。
3 拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる。
作業を一律に義務付けるのではなく、改善更生のために必要な作業や指導を行わせることができるという建て付けに変わりました。禁錮を定めていた刑法第13条は削除されています。


労働基準法の罰則一覧
労働基準法の罰則は、第117条から第120条までに、違反した条文ごとに4段階で定められています。
| 罰則(根拠条文) | 主な違反行為 |
|---|---|
| 1年以上10年以下の拘禁刑又は20万円以上300万円以下の罰金(第117条) |
|
| 1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(第118条) |
|
| 6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金(第119条) |
|
| 30万円以下の罰金(第120条) |
|


労働安全衛生法の罰則一覧
労働安全衛生法の罰則は、第115条の3から第123条までに置かれています。
| 罰則(根拠条文) | 主な違反行為 |
|---|---|
| 3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金(第116条) |
|
| 1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(第117条) |
|
| 6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(第119条) |
|
| 50万円以下の罰金(第120条) |
|
労働安全衛生法の罰金額は、労働基準法より高く設定されています。 労働基準法第120条が30万円以下であるのに対し、労働安全衛生法第120条は50万円以下です。
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罰せられるのは会社か、個人か
罰則の条文を読むときに、最も誤解されているのがここです。
多くの方が「違反すれば会社に罰金が科される」と理解されていますが、労働基準法も労働安全衛生法も、違反行為をした個人も処罰する仕組みになっています。
労働安全衛生法の両罰規定
- 労働安全衛生法第122条
- 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第百十六条、第百十七条、第百十九条又は第百二十条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。
「行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても」と定められています。つまり、法人に罰金を科して終わりではなく、違反行為をした個人も処罰の対象になります。
第119条に該当する違反であれば、その個人について6月以下の拘禁刑があり得るということです。法人に科されるのは罰金刑のみですが、個人にはそれが当てはまりません。


労働基準法の両罰規定
労働基準法の両罰規定は、労働安全衛生法とは書き方が異なります。
- 労働基準法第121条
- この法律の違反行為をした者が、当該事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者である場合においては、事業主に対しても各本条の罰金刑を科する。ただし、事業主が違反の防止に必要な措置をした場合においては、この限りでない。
2 事業主が違反の計画を知りその防止に必要な措置を講じなかつた場合、違反行為を知り、その是正に必要な措置を講じなかつた場合又は違反を教唆した場合においては、事業主も行為者として罰する。
注目していただきたいのは第2項です。事業主が違反の計画や違反行為を知りながら、防止や是正に必要な措置を講じなかった場合、事業主は「行為者として」罰せられます。
これは罰金刑にとどまりません。行為者として罰せられる以上、第119条に該当する違反であれば、事業主自身が拘禁刑の対象になり得るということです。


実務上の注意点
1. 「労働基準法違反は30万円」だけではない
労働基準法の罰則は違反した条文ごとに異なりますが、ひとくくりに理解されていることが多い部分です。
たとえば、賃金の未払いは次のように分かれます。
| 違反の内容 | 根拠 | 罰則 |
|---|---|---|
| 賃金を全額支払わなかった | 第24条違反 | 30万円以下の罰金(第120条) |
| 時間外労働の割増賃金を支払わなかった | 第37条違反 | 6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金(第119条) |
罰金額は同じですが、割増賃金の不払いには拘禁刑が定められています。いわゆる未払い残業が監督署で重く扱われる理由の一つが、この条文構造にあります。
2. 実施義務に罰則がなくても、報告を怠れば罰則の対象になる
労働安全衛生法には、実施そのものには罰則が定められていない義務があります。その代表例がストレスチェック(第66条の10)です。
ただし、実施状況の報告を怠った場合は、第100条第1項の報告義務違反として、第120条の50万円以下の罰金の対象となります。労働者死傷病報告も、同じ第100条第1項に基づく報告であり、提出を怠れば同じく第120条の対象です。
「実施しなくても罰則はない」という説明だけを聞いて安心してしまうと、報告義務のほうを見落とします。


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まとめ
労働基準法と労働安全衛生法の罰則は、日常の業務では意識されません。意識されるのは、労働基準監督署の調査を受けたときや、労働災害が起きたときです。そして、そのときには既に違反の状態が出来上がっています。
罰則規定を読んで確認していただきたいのは、金額の大きさではありません。
違反の多くが、衛生管理者を選任していない、就業規則を届け出ていない、健康診断を実施していないといった、体制の不備から生じているという点です。いずれも、平時であれば手間をかけずに整えられるものばかりです。
そして、処罰の対象になるのは会社だけではありません。その措置を講じる立場にあった個人も問われるという点にはご注意ください。
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当事務所の場合
罰則が現実の問題になるのは、たいてい何かが起きた後です。そして調査の場で問われるのは、違反をした理由ではなく、違反にならない体制を整えていたかどうかです。
あべ社労士事務所の代表社労士は、厚生労働省労働基準局で労働基準法令・労働安全衛生法令の政策立案に従事してきました。どの条文がどのような場面で問われるのかを、条文と通達が組み立てられる側から見てきました。
なお、今回の改正を受けて、当事務所は当サイトの全記事の条文表記を点検し、現行法に更新しました。
当事務所の労務監査では、経営労務診断基準51項目と、独自の労働安全衛生法の点検項目に沿って、罰則の対象となる体制の不備がないかを確認します。
罰則の対象となる状態が自社に残っていないか確かめるなら
経営労務診断基準の51項目と独自の労働安全衛生法の点検項目に沿って、厚生労働省労働基準局出身の代表社労士自らが点検します。
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