「研修は正社員向けに行い、パートや有期雇用の従業員には現場で仕事を教えれば十分」と考えていませんか?
研修の対象や時間の扱いは会社が自由に決められるように見えますが、法律上の義務がかかる場面があるため要注意です。
本記事では、厚生労働省の「令和7年度「能力開発基本調査」」をもとにOFF-JTの受講時間の実態を紹介し、研修の時間の扱い、パート・有期雇用労働者への教育訓練の義務、就業規則への記載を解説します。


OFF-JTとOJTの違い
能力開発基本調査では、OFF-JTとOJTを次のように定義しています。
- OFF-JT:業務命令に基づき、通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練(研修)
- OJT:日常の業務に就きながら行われる教育訓練
調査では、OJTのうち、教育訓練に関する計画書を作成し、教育担当者、対象者、期間、内容などを具体的に定めて段階的・継続的に実施するものを「計画的なOJT」として集計しています。
| 比較項目 | OFF-JT | OJT |
|---|---|---|
| 実施する場面 | 通常の仕事を離れて行う | 日常の業務に就きながら行う |
| 主な形態 | 社内の集合研修、社外の教育訓練機関の講習など | 上司や先輩による業務中の指導 |
| 時間の把握 | 研修の時間として区切られるため把握しやすい | 業務と一体のため区別しにくい |
| 記録 | 受講者名簿、カリキュラムなどが残りやすい | 計画書を作らない限り残りにくい |
OJTは、計画書を作らない限り、誰に何を教えたかが記録に残りにくいという特徴があります。後述するパート・有期雇用労働者への教育訓練の義務を果たしているかを説明するときに、この点が問題になります。
OFF-JTの受講時間の実態(令和7年度調査)
令和7年度調査は、令和6年度の1年間の受講実績を集計したものです。
以下はグラフを表示しています。
もしグラフが表示されていない場合はページの更新をしてください。
10時間未満が約半数
OFF-JTを受講した者の1年間の延べ受講時間は、労働者全体で「5時間未満」が22.0%、「5時間以上10時間未満」が27.1%でした。
10時間未満の者が約半数を占めている状況です。
※「30時間以上」は、調査の「30時間以上50時間未満」「50時間以上100時間未満」「100時間以上」の合計です。「不明」(各0.2%)は表示していません。幅の狭い区画の数値はグラフ上に表示していないため、棒にカーソルを合わせて(スマホでは触れて)確認してください。
厚生労働省の推計による平均延べ受講時間は、労働者全体で20.5時間です。1年間で20時間、つまり1日8時間として3日にも満たない時間です。


正社員以外の受講時間は正社員の約半分
正社員と正社員以外を比べると、差ははっきりしています。
| 区分 | 正社員 | 正社員以外 |
|---|---|---|
| 「5時間未満」の割合 | 17.9% | 45.3% |
| 平均延べ受講時間(令和7年度調査) | 22.2時間 | 11.2時間 |
| 平均延べ受講時間(令和5年度調査) | 22.1時間 | 11.7時間 |
正社員以外の受講時間は、正社員の約半分です。令和5年度調査と比べても、この差は縮まっていません。
正社員以外に研修を行う事業所は3割前後
事業所の側から見ても、同じ傾向があります。
令和7年度調査で、OFF-JTを実施した事業所の割合は、正社員の新入社員に対しては58.7%でしたが、正社員以外に対しては30.7%でした。
計画的なOJTも、正社員以外に対して実施した事業所は25.1%にとどまります。


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研修の時間は労働時間に当たるか
研修を行うときに会社がまず整理しておくべきは、研修の時間が労働時間に当たるかどうかという点です。
労働時間に当たれば、賃金の支払いが必要です。所定労働時間を超えれば割増賃金も必要になります。
判断の基準は指揮命令下にあるかどうか
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます(三菱重工業長崎造船所事件・最一小判平12.3.9)。就業規則や労働契約でどう定めているかではなく、客観的に指揮命令下にあるかどうかで判断されます。
厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)は、参加することが業務上義務付けられている研修・教育訓練の受講の時間を、労働時間として扱わなければならない時間に挙げています。
一方、行政通達(昭26.1.20 基収第2875号)では、使用者が実施する教育への参加について、就業規則上の制裁などの不利益な取扱いによって出席を強制せず、自由参加とされているものであれば、時間外労働にはならないという解釈が示されています。
判断の際の観点
仕事に関係する内容の研修だからといって、その時間がすべて労働時間になるわけではありません。一方で、「自由参加」と案内していても、実態として参加が強制されていれば労働時間になります。判断するときは、次のような点を確認します。
- 参加が業務命令として指示されているか、自由参加か
- 参加しなかった場合に、制裁や人事評価などの不利益があるか
- 研修の内容が、現在の業務の遂行に直接必要なものか
- 所定労働時間外や休日に実施していないか
- 業務に必要な資格の取得・更新のための講習か
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パート・有期雇用労働者への教育訓練の義務
パート・有期雇用労働者への教育訓練については、パートタイム・有期雇用労働法第11条が定めています。
- パートタイム・有期雇用労働法第11条
- 事業主は、通常の労働者に対して実施する教育訓練であって、当該通常の労働者が従事する職務の遂行に必要な能力を付与するためのものについては、職務内容同一短時間・有期雇用労働者(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者を除く。以下この項において同じ。)が既に当該職務に必要な能力を有している場合その他の厚生労働省令で定める場合を除き、職務内容同一短時間・有期雇用労働者に対しても、これを実施しなければならない。
- 事業主は、前項に定めるもののほか、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、その雇用する短時間・有期雇用労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力及び経験その他の就業の実態に関する事項に応じ、当該短時間・有期雇用労働者に対して教育訓練を実施するように努めるものとする。
「職務の内容」とは、業務の内容と、その業務に伴う責任の程度をいいます。
第1項は義務、第2項は努力義務
第11条は、対象者と研修の種類によって、義務と努力義務に分かれています。
| 比較項目 | 第1項 | 第2項 |
|---|---|---|
| 性質 | 義務 | 努力義務 |
| 対象となる従業員 | 職務の内容が正社員と同じパート・有期雇用労働者 | すべてのパート・有期雇用労働者 |
| 対象となる研修 | 正社員に実施している研修のうち、その職務の遂行に必要な能力を身につけるためのもの | 第1項以外の研修 |
| 実施しなくてよい場合 | その職務に必要な能力をすでに持っている場合 | — |
つまり、正社員に対して、その職務に必要な能力を身につけるための研修を行っている場合、正社員と同じ職務を担うパート・有期雇用労働者にも、同じ研修を実施しなければなりません。
なお、職務の内容に加えて、人事異動などによる職務の内容・配置の変更の範囲も正社員と同じパート・有期雇用労働者は、第9条の差別的取扱いの禁止の対象となり、教育訓練を含むすべての待遇で差を設けることができません。
職務の内容が異なる場合も、相違に応じた実施が求められる
職務の内容が正社員と異なれば何もしなくてよい、というわけでもありません。同一労働同一賃金ガイドライン(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)は、現在の職務の遂行に必要な技能・知識を習得するための教育訓練について、次のように示しています。
- 職務の内容が正社員と同じパート・有期雇用労働者には、正社員と同一の教育訓練を実施しなければならない
- 職務の内容に一定の相違がある場合は、その相違に応じた教育訓練を実施しなければならない
これは、不合理な待遇差を禁止する第8条の考え方を示したものです。
調査結果から見えること:会社が対応すべき点
先に見たとおり、正社員以外の受講時間は正社員の約半分です。この差そのものが直ちに違法になるわけではありません。しかし、次のような状態であれば、法律上の問題になりえます。
- 正社員と同じ仕事をしているパート・有期雇用労働者に、正社員と同じ業務上の研修を実施していない
- 研修の対象者を雇用形態だけで決めており、仕事の内容との関係を整理していない
- 研修の差について説明を求められても、理由を説明できない
パート・有期雇用労働者から求めがあった場合、会社は正社員との待遇の相違の内容と理由を説明しなければなりません(第14条第2項)。教育訓練も、この待遇に含まれます。
さらに、2026年(令和8年)10月1日からは、パート・有期雇用労働者を雇い入れるときに、待遇の相違の内容・理由などについて説明を求めることができる旨を、文書の交付などで明示することが義務付けられました。説明を求められる場面は、これから増えると考えます。
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違反した場合
第11条第1項に違反しても、罰則はありません。
ただし、都道府県労働局による報告の求め、助言、指導、勧告の対象となり、勧告に従わない場合は企業名が公表されることがあります(第18条)。
そして、報告をしない、または虚偽の報告をした場合は、20万円以下の過料に処せられます(第30条)。
安全衛生教育は雇用形態を問わない
製造業や建設業など、危険を伴う現場がある会社では、労働安全衛生法上の教育にも注意が必要です。
雇入れ時の安全衛生教育は、パート・アルバイトを含むすべての労働者が対象であり、雇用形態による差は認められていません。
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就業規則への記載
職業訓練(研修・教育訓練)について会社で定めをする場合は、その内容を就業規則に記載しなければなりません。
- 労働基準法第89条(抜粋)
- 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
(略)
七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
これは、定めをする場合に記載が必要となる「相対的必要記載事項」です。研修制度を設けているのに就業規則に記載がなければ、労働基準法第89条違反となり、30万円以下の罰金の対象です(第120条)。
就業規則で研修について定めるときは、少なくとも次の点を整理しておく必要があります。
- 研修の対象となる従業員の範囲
- 受講が業務命令によるものか、任意か
- 所定労働時間外・休日に実施する場合の扱い
- 研修にかかる費用の負担
- パート・有期雇用労働者用の就業規則にも同じ定めがあるか、異なるならその理由
特に最後の点は見落とされがちです。正社員用の就業規則には研修の定めがあるのに、パート用の就業規則には何も書かれていない、という会社は少なくありません。


まとめ
データからわかる事実は、次のとおりです。
- OFF-JTの延べ受講時間は10時間未満が約半数で、平均は20.5時間
- 正社員以外の平均受講時間は11.2時間で、正社員(22.2時間)の約半分。令和5年度調査から差は縮まっていない
- 正社員以外にOFF-JTを実施した事業所は30.7%、計画的なOJTは25.1%
研修を誰に、どれだけ行うかは、多くの部分で会社の判断に委ねられています。しかし、職務の内容が正社員と同じパート・有期雇用労働者への業務上必要な研修は義務であり、研修の差は説明を求められる待遇の一つです。研修の時間を労働時間として扱っていなければ、未払い賃金の問題にもなります。
研修の対象者を雇用形態だけで決めていないか、研修の時間をどう扱っているか、就業規則に正しく定められているか。いずれも、従業員から説明を求められたときや、労働基準監督署の調査の際に問われる点です。
当事務所の場合
研修制度は、会社が「良かれと思って」始めたものほど、規定が追いつかないまま運用されている傾向があります。研修の時間の扱いと、パート・有期雇用労働者との差の理由は、従業員から問われたときに初めて整理されていないことが分かる論点です。
あべ社労士事務所の代表社労士は、厚生労働省労働基準局で労働基準法令・労働安全衛生法令の政策立案に従事してきました。当事務所の就業規則コンサルティングでは、研修に関する規定が、労働時間の扱い、パート・有期雇用の従業員への適用、実際の運用と一致しているかを含めて確認します。
研修の位置付けを、パート・有期の従業員も含めて就業規則で整理するなら
厚生労働省労働基準局出身の代表社労士が徹底的にヒアリングし、御社の実態に沿った就業規則を作成します。
就業規則コンサルの詳細を見る参考:厚生労働省「令和7年度「能力開発基本調査」の結果を公表します」/厚生労働省「令和5年度「能力開発基本調査」の結果を公表します」/厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」/厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法」