御社の事業場は産業医を選任していますか? 選任している場合、その産業医は毎月、職場を巡視していますか?
産業医は、衛生管理者と同じく、常時50人以上の労働者を使用するすべての業種の事業場に選任が義務付けられています。
そして2026年(令和8年)8月1日から、産業医が辞任・解任・退任したときにも、労働基準監督署への報告が必要になりました。これまで報告義務は選任時だけでしたので、実務上の変更点です。
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産業医とは
産業医とは、医学的な観点から、職場における労働者の健康管理等を効果的に行うために選任される者です。
産業医になるには、まず医師であることが必要です。そのうえで、労働安全衛生法第13条第2項により、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について、厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならないとされています。
その要件は、労働安全衛生規則第14条第2項により、次のとおり定められています。
- 労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であって、厚生労働大臣の指定する者(法人に限る)が行うものを修了した者
- 産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であって厚生労働大臣が指定するものにおいて、当該課程を修めて卒業した者であって、その大学が行う実習を履修したもの
- 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生であるもの
- 学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授または講師(常時勤務する者に限る)の職にあり、またはあった者
- 前各号に掲げる者のほか、厚生労働大臣が定める者
実務上は、1つ目の日本医師会の産業医学基礎研修等を修了した医師(いわゆる認定産業医)が大半です。医師免許があれば誰でも産業医になれるわけではない点に注意してください。
産業医の選任と必要な人数
産業医は、労働安全衛生法第13条に基づき、すべての業種において、常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任が義務付けられています。
- 労働安全衛生法第13条第1項(産業医等)
- 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項を行わせなければならない。
事業場の規模によって、必要な産業医の人数が異なります。
| 事業場の規模(常時使用する労働者数) | 必要な産業医数 |
|---|---|
| 50人以上3,000人以下 | 1人 |
| 3,000人を超える場合 | 2人以上 |


労働安全衛生法は、労働基準法と同じく事業場単位で適用されます。本社が50人以上であれば本社に、工場が50人以上であれば工場に、それぞれ産業医が必要です。
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なお、常時50人未満の事業場については選任義務はありませんが、労働安全衛生法第13条の2により、医師または保健師に労働者の健康管理等を行わせるよう努めなければならないとされています(努力義務)。
産業医に選任できない者
産業医は、事業者に対して労働者の健康管理について勧告する立場にあります。そのため、勧告を受ける側の人物が産業医を兼ねることは認められていません。
労働安全衛生規則第13条第1項第2号により、次の者は産業医に選任できません。
- 事業者が法人の場合の、当該法人の代表者
- 事業者が法人でない場合の、事業を営む個人
- 事業場においてその事業の実施を統括管理する者
この規定は、医療法人の理事長や病院の院長が自らの施設の産業医を兼ねている例が見られたことを受けて設けられたものです。労働者の健康管理は費用を伴うため、事業経営上の利益を優先して産業医としての職務が適切に行われないおそれがある、というのが趣旨です。
ただし、代表者と個人事業主については例外があります。条文は「事業場の運営について利害関係を有しない者を除く」としており、その事業場の運営に利害関係を持たない立場であれば、選任が可能です。


専属の産業医が必要な事業場
次のいずれかに該当する事業場では、その事業場に専属の産業医を選任しなければなりません(労働安全衛生規則第13条第1項第3号)。
- 常時1,000人以上の労働者を使用する事業場
- 次に掲げる有害業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場
「次に掲げる業務」とは次のとおりです。有害物や高熱を扱う現場に限った話に見えますが、深夜業を含む業務が入っている点に注意が必要です。
- 多量の高熱物体を取り扱う業務および著しく暑熱な場所における業務
- 多量の低温物体を取り扱う業務および著しく寒冷な場所における業務
- ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
- 土石、獣毛等のじんあいまたは粉末を著しく飛散する場所における業務
- 異常気圧下における業務
- さく岩機、鋲打機等の使用によって身体に著しい振動を与える業務
- 重量物の取扱い等重激な業務
- ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
- 坑内における業務
- 深夜業を含む業務
- 水銀、砒素、黄りん等の有害物を取り扱う業務
- 鉛、水銀、一酸化炭素等の有害物のガス・蒸気・粉じんを発散する場所における業務
- 病原体によって汚染のおそれが著しい業務
- その他厚生労働大臣が定める業務
交替制勤務で深夜業を行う事業場は、製造業・運輸業・医療・介護など幅広く存在します。常時500人以上が深夜業に従事していれば、専属産業医が必要である点にご注意ください。
なお、この有害業務の一覧は、衛生管理者のうち1人を衛生工学衛生管理者から選任すべき場合の一覧とは範囲が異なります。混同しないように、以下の記事をご参照ください。
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産業医の職務
産業医の職務は、労働安全衛生規則第14条第1項により、次のとおり定められています。
- 健康診断の実施およびその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること
- 長時間労働者等に対する面接指導および必要な措置の実施ならびにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること
- ストレスチェックの実施ならびに高ストレス者に対する面接指導の実施およびその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること
- 作業環境の維持管理に関すること
- 作業の管理に関すること
- 前各号に掲げるもののほか、労働者の健康管理に関すること
- 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること
- 衛生教育に関すること
- 労働者の健康障害の原因の調査および再発防止のための措置に関すること
これに加えて、産業医には衛生委員会または安全衛生委員会への出席と、後述する職場巡視があります。
また、産業医は、これらの事項について総括安全衛生管理者に勧告し、衛生管理者に指導・助言することができるとされています(同条第3項)。衛生管理者と産業医は、それぞれ独立した役割ではなく、連携して機能することが前提になっています。
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産業医の職場巡視
産業医は、少なくとも毎月1回、作業場等を巡視しなければなりません。
- 労働安全衛生規則第15条第1項(産業医の定期巡視)
- 産業医は、少なくとも毎月1回(産業医が、事業者から、毎月1回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であつて、事業者の同意を得ているときは、少なくとも二月に1回)作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
条文のかっこ書きのとおり、次の2つをどちらも満たす場合に限り、巡視の頻度を2か月に1回とすることができます。
- 事業者から産業医に対し、毎月1回以上、次の情報が提供されていること
- 事業者の同意があること
ここでいう「次の情報」とは、具体的には以下の2つです。
- 衛生管理者が毎週1回行う職場巡視の結果
- 上記のほか、労働者の健康障害を防止し、または健康を保持するために必要な情報であって、衛生委員会等の調査審議を経て事業者が産業医に提供することとしたもの
つまり、2か月に1回にできるのは、衛生管理者の巡視結果が毎月きちんと産業医に渡っている事業場だけです。衛生管理者の巡視記録が残っていない事業場は、この特例を使えません。


事業者側の義務(2019年4月から)
2019年(平成31年)4月1日の法改正により、産業医を選任した事業者の側にも、産業医に関する義務が課されました。産業医を選任して終わりではありません。
1. 産業医への情報提供
事業者は、産業医に対して次の情報を提供しなければなりません(労働安全衛生法第13条第4項、同規則第14条の2)。
- 健康診断、面接指導、ストレスチェックの結果に基づき既に講じた措置または講じようとする措置の内容(措置を講じない場合はその旨と理由)
- 時間外・休日労働時間が1か月あたり80時間を超えた労働者の氏名と、その超えた時間に関する情報
- 上記のほか、労働者の業務に関する情報であって、産業医が健康管理等を適切に行うために必要と認めるもの
2つ目は、該当者がいる場合に氏名まで提供する義務です。かつては月100時間超が基準でしたが、現在は80時間超です。時間外労働の集計を行ったら、速やかに提供しなければなりません。
2. 勧告への対応と衛生委員会への報告
産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に勧告することができ、事業者はこれを尊重しなければなりません(労働安全衛生法第13条第5項)。
- 労働安全衛生法第13条第6項
- 事業者は、前項の勧告を受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該勧告の内容その他の厚生労働省令で定める事項を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければならない。
さらに、事業者は勧告の内容と、それを踏まえて講じた措置の内容(措置を講じない場合はその旨と理由)を記録し、3年間保存しなければなりません(同規則第14条の3第2項)。
3. 産業医への権限の付与
事業者は、産業医に対し、職務をなし得る権限を与えなければなりません(同規則第14条の4)。この権限には、次のものが含まれます。
- 事業者または総括安全衛生管理者に対して意見を述べること
- 職務を実施するために必要な情報を労働者から収集すること
- 労働者の健康を確保するため緊急の必要がある場合において、労働者に対して必要な措置をとるべきことを指示すること
4. 不利益な取扱いの禁止
事業者は、産業医が勧告・指導・助言をしたことを理由として、産業医を解任するなどの不利益な取扱いをしてはなりません(同規則第14条第4項)。
5. 健康相談の体制整備
事業者は、産業医が労働者からの健康相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備等を行うよう努めなければなりません(労働安全衛生法第13条の3、努力義務)。
選任と辞任等の報告義務(2026年8月1日から)
産業医は、選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任しなければなりません(労働安全衛生規則第13条第1項第1号)。「選任すべき事由が発生した日」とは、その事業場の労働者数が常時50人以上になった日、または産業医に欠員が生じた日です。
そして選任したときは、遅滞なく所轄の労働基準監督署長に報告しなければなりません。この報告は、電子情報処理組織を使用して行うこととされています(同条第2項)。いわゆる電子申請です。
辞任・解任・退任時にも報告が必要になりました
従来、報告義務があったのは選任時だけでした。そのため、産業医が辞任等をした後、後任が選任されないまま放置されているケースを労働基準監督署が把握できないという問題がありました。
これを受けて労働安全衛生規則が改正され、2026年(令和8年)8月1日以降は、辞任・解任・退任の場合にも報告が必要になりました。
- 労働安全衛生規則第13条第5項
- 事業者は、法第13条第1項の規定により選任した産業医の辞任等があつたときは、遅滞なく、電子情報処理組織を使用して、次に掲げる事項を、所轄労働基準監督署長に報告しなければならない。ただし、当該報告は、後任者の選任に係る第2項の規定による同項第一号及び第七号に掲げる事項の報告をもつて、これに代えることができる。
ここでいう「辞任等」には、次のすべてが含まれます。
- 辞任(産業医側からの申し出による退任)
- 解任(事業者による解任)
- 退任(任期満了等による退任)
ただし書のとおり、後任の産業医を選任して選任報告を行う場合は、その報告で代えることができます。空白期間なく後任を選任できれば、報告は1回で済みます。逆に、後任が決まらないまま産業医が不在になる場合は、辞任等の報告だけを先に行うことになります。
なお、これとは別に、産業医が辞任・解任したときは、遅滞なくその旨と理由を衛生委員会または安全衛生委員会に報告しなければなりません(同条第4項)。こちらは2019年4月から義務化されているもので、監督署への報告とは別の手続きです。
これらの辞任等の報告義務については、専門誌からのご依頼を受け執筆したことがあります。
参考:専門誌ビジネスガイドで「産業医の辞任・解任・退任時の報告義務化と健康管理体制の総点検」を執筆
違反した場合の罰則
労働安全衛生法第13条第1項に違反して産業医を選任しなかった場合、同法第120条に基づき50万円以下の罰金の対象となります。
実務上の注意点
選任しているが、職務が行われていない
最も多いのがこの状態です。労働基準監督署の調査では、選任の有無だけでなく、次のような点が確認されます。
- 産業医を選任していますか
- 産業医は、衛生委員会または安全衛生委員会に出席していますか
- 職場巡視は行われていますか、その記録はありますか
- 御社の事業場で、労働衛生上、懸案となっていることは何ですか
これらに即答できなければ、選任していても職務が行われていないとみなされる可能性があります。
産業医が見つからない
実際に探してみるとわかりますが、産業医の確保は容易ではありません。専属義務がない事業場では外部の医師に依頼することになりますが、50人に近づいた時点から動き出す必要があります。選任期限は事由発生から14日以内です。
欠員が生じたときの手続きが漏れる
産業医が辞任・解任・退任した場合、新たに選任すべき事由が発生したことになり、14日以内の選任が必要です。あわせて、衛生委員会への報告と、2026年8月からは労働基準監督署への報告も必要になります。手続きが3つに増えている点に注意してください。
当事務所の場合
産業医は、選任して届け出たら終わり、ではありません。2019年の改正で、情報提供・勧告への対応・権限の付与・記録の保存といった事業者側の義務が加わり、2026年8月からは辞任等の報告義務も始まりました。
一方で実際の事業場では、「名前を借りているだけ」「巡視をしてもらった記憶がない」という状態が少なくありません。この状態は、労働基準監督署の調査で必ず露見します。
あべ社労士事務所の代表社労士は、厚生労働省で労働安全衛生行政に従事した経験を有します。当事務所の労務監査では、産業医・衛生管理者の選任、衛生委員会の開催、健康診断、ストレスチェックといった安全衛生管理体制を含めて確認します。
安全衛生管理体制が形だけになっていないか確かめるなら
経営労務診断基準の51項目に沿って、厚生労働省労働基準局出身の代表社労士自らが点検します。
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