現場の班長やリーダーを任命するとき、その方に安全衛生の教育を行っていますか?「仕事ができる人だから任せた」で終わっていませんか?
建設業や製造業などでは、新たに職長になった従業員に対して、安全衛生のための教育を行うことが法律で義務付けられています。一般に「職長教育」と呼ばれ、法令上は「職長等の教育」といいます。


職長教育の根拠
職長教育の根拠は労働安全衛生法第60条です。
- 労働安全衛生法第60条
- 事業者は、その事業場の業種が政令で定めるものに該当するときは、新たに職務につくこととなった職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く。)に対し、次の事項について、厚生労働省令で定めるところにより、安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。
- 作業方法の決定及び労働者の配置に関すること。
- 労働者に対する指導又は監督の方法に関すること。
- 前二号に掲げるもののほか、労働災害を防止するため必要な事項で、厚生労働省令で定めるもの
この義務には罰則がありません。ただし、罰則がないことと、守らなくてよいことは別です。法律上の義務である以上、行っていなければ労働基準監督署の指導の対象になります。
建設業では、職長教育を修了していない職長を現場に入れない発注者や元請もあると聞きます。
対象となる業種
職長教育が義務となるのは、次の業種です(労働安全衛生法施行令第19条)。従業員数による区別はなく、小規模な事業場でも対象になります。
- 建設業
- 製造業(次の業種を除く)
- たばこ製造業
- 繊維工業(紡績業及び染色整理業を除く)
- 衣服その他の繊維製品製造業
- 紙加工品製造業(セロファン製造業を除く)
- 電気業
- ガス業
- 自動車整備業
- 機械修理業
2023年4月から対象に加わった業種
次の業種は、以前は対象から除かれていましたが、2023年(令和5年)4月1日から対象になっています。
- 食料品製造業
- 新聞業、出版業、製本業及び印刷物加工業
対象に加わったことを知らないまま、教育を行っていない事業場が見受けられます。食料品の製造や印刷・製本を行っている会社は、あらためてご確認ください。
対象者
対象となるのは、「新たに職務につくこととなった職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者」です。
- 役職の名称は問いません。班長、リーダー、ライン長、主任など、呼び方にかかわらず、作業中の労働者を直接指導・監督する立場であれば対象です
- 作業主任者は除かれます。作業主任者には、別に技能講習などの資格要件が定められているためです
- 「新たに職務につくこととなった」ときに行います。昇格や配置換えで初めてその立場になる従業員が対象です


教育の内容と時間
教育の内容と時間は、労働安全衛生規則第40条で定められています。合計12時間以上です。
| 教育事項 | 内容 | 時間 |
|---|---|---|
| 作業方法の決定及び労働者の配置 | 作業手順の定め方 労働者の適正な配置の方法 | 2時間 |
| 労働者に対する指導又は監督の方法 | 指導及び教育の方法 作業中における監督及び指示の方法 | 2.5時間 |
| 危険性又は有害性等の調査とその結果に基づく措置 | 調査の方法 調査の結果に基づき講ずる措置 設備、作業等の具体的な改善の方法 | 4時間 |
| 異常時等における措置 | 異常時における措置 災害発生時における措置 | 1.5時間 |
| その他現場監督者として行うべき労働災害防止活動 | 設備及び作業場所の保守管理の方法 労働災害防止についての関心の保持及び労働者の創意工夫を引き出す方法 | 2時間 |
最も時間が長いのは「危険性又は有害性等の調査」、いわゆるリスクアセスメントです。職長は、現場の危険を見つけて対策を決める役割を担うためです。
なお、教育事項の全部または一部について十分な知識及び技能を有していると認められる者については、その事項の教育を省略できます(同条第3項)。
実施の方法
職長教育は、事業者が自ら行うことも、外部の団体が開く講習を受講させることもできます。外部の講習を利用した場合は修了証が交付されるので、受講したことの証明が残ります。
建設業の職長・安全衛生責任者教育
建設業では、「職長・安全衛生責任者教育」という名称の講習が一般的です。
建設現場に下請として入る会社は、元請との連絡調整などを行う「安全衛生責任者」を選任する必要があります(労働安全衛生法第16条)。現場の職長がこの安全衛生責任者を兼ねることが多いため、職長教育に安全衛生責任者としての教育を加えた講習が行われているところもあります。
建設業で職長になる従業員には、こちらの講習を受けさせるのが通常です。
5年ごとの再教育


職長教育そのものに有効期限や更新の制度はありません。一方で、厚生労働省は通達により、職長に対しておおむね5年ごと、または機械設備などに大きな変更があったときに、「能力向上教育に準じた教育」を行うよう求めています(建設業:平成29年2月20日基発0220第3号、製造業:令和2年3月31日基発0331第7号)。
これらは通達に基づくものであり、受けていないからといって職長の資格を失うわけではありません。ただし、建設業では、元請が5年以内の受講を現場に入る条件としていることがあります。
記録の扱い
特別教育には、記録を作成して3年間保存する義務があります(労働安全衛生規則第38条)。一方、職長教育には、記録の作成・保存を義務付ける規定がありません。
しかし、記録は必ず残してください。記録がなければ、教育を行ったことを証明できないからです。
- 外部の講習を受講させた場合:修了証の写しを会社で保管する
- 自社で行った場合:実施日、時間、科目、講師、受講者を記録する
修了証を本人だけが持っていて、会社に写しがないという例は少なくありません。退職や紛失で確認できなくなる前に、会社として保管しておくことをお勧めします。
関連:雇入れ時教育とは? 対象となる従業員・教育内容と省略できる場合
労働災害が起きたときに問われること
労働災害が発生すると、会社が安全衛生についてどのような取組みをしていたかが問われます。教育もその中で重要視される1つです。
このとき、職長教育だけを切り離して見られるわけではありません。その業務に必要な安全衛生教育が行われていたかが、全体として問われます。そして「安全衛生教育をしていました」という説明だけでは足りないのが実情です。
罰則がないからといって、職長教育を後回しにしてよい理由にはなりません。
関連:安全配慮義務とは? 根拠となる法律・判例と4つのチェックポイント
実務上の注意点
任命しただけで教育をしていない
最も多いのがこの状態です。
現場の経験が長く、仕事をよく知っている従業員ほど、「いまさら教育は必要ない」と考えられがちです。
しかし、職長教育で扱うのは作業そのものではなく、部下への指示の出し方、作業手順の決め方、危険の見つけ方です。作業ができることと、人を安全に動かせることは別です。
2023年4月に対象業種になったことを知らない
前述のとおり、食料品製造業、新聞業、出版業、製本業、印刷物加工業の事業場は新たに対象業種になっています。
2023年4月1日以降に新たに職長になった従業員が、教育を受けないまま現場を指揮していないかを確認してください。
受講の記録や修了証が残っていない
過去に受講させたはずだが、修了証が見当たらない。誰がいつ受けたのか、一覧がない。このような状態では、教育を行ったことを示せません。
職長の立場にある従業員について、受講日と修了証の有無を一覧にしておくと、再教育の時期の管理にも使えます。
まとめ
職長教育は、対象業種であれば、事業場の規模にかかわらず必要です。罰則はありませんが、法律上の義務であり、労働災害が起きたときには会社の安全衛生に関する取組みとして必ず確認されます。
現場の指揮を任せている従業員が、いつ、どの教育を受けているか、即答できない場合は、まず一覧をつくるところから始めることをお勧めします。
当事務所の場合
あべ社労士事務所の代表社労士は、厚生労働省で労働基準法令・労働安全衛生法令の政策立案に従事し、労働安全衛生行政を担当してきました。
当事務所の労務監査では、労働災害が起きたときにどこが問われるかを踏まえて、法令で必要とされる安全衛生教育の実施状況を点検します。
必要な安全衛生教育が行われ、記録が残っているか確かめるなら
経営労務診断基準の51項目と独自の労働安全衛生法の点検項目に沿って、厚生労働省労働基準局出身の代表社労士自らが点検します。
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