労働者性とは? 判断基準・業務委託や請負との違い・認められた場合のリスク

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「業務委託契約を結んでいるから、この人は労働者ではない」と考えていませんか?

労働基準法上の労働者にあたるかどうか(労働者性)は、契約書の名称では決まりません。業務委託契約や請負契約を結んでいても、働き方の実態によっては労働者と判断されます。そして労働者と判断されると、労働基準法をはじめとする労働法令がさかのぼって適用されることになります。

Qちゃん
契約書をきちんと作っていても、労働者と判断されることがあるんですか?
A先生
はい。契約書の名称よりも、実際にどう働いてもらっているかが問われます。業務委託のつもりが、実態は従業員と変わらない。そういう会社は少なくありません。

労働者性が問題になる場面

労働者性が問題になるのは、たとえば次のような場面です。

  • 建設業の一人親方や、製造・印刷の外注先など、個人に業務を委託している
  • 従業員だった人と、退職後に業務委託契約を結び直した
  • 取締役に就いているが、部長などの役職で従業員と同じ業務にも従事している
  • 執行役員に就いているが、会社法上の役員ではなく、業務執行の指示を受けて働いている

いずれも、契約や肩書きの上では労働者ではない形になっています。しかし、実態を見て労働者と判断されることがあります。

執行役員は、「役員」という名称が付いていても、会社法上の役員(取締役など)ではありません。雇用契約のまま執行役員に就く場合はもちろん、委任契約を結ぶ場合でも、働き方の実態によっては労働者と判断されます。

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労働基準法上の「労働者」の定義

労働基準法は、「労働者」を次のように定義しています。

労働基準法第9条(定義)
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

ポイントは、「使用される者」であることと、「賃金を支払われる者」であることの2つです。賃金については、第11条で次のように定義されています。

労働基準法第11条
この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

なお、労働安全衛生法と最低賃金法は、「労働者」の定義を労働基準法第9条によるとしています。つまり、労働基準法上の労働者にあたれば、労働安全衛生法や最低賃金法も適用されます。

労働者性の判断基準

労働者性の判断基準は、旧労働省の労働基準法研究会が1985年(昭和60年)12月19日にまとめた報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」で示されています。

報告では、「指揮監督下の労働」と「報酬の労務対償性」の2つをあわせて「使用従属性」と呼んでいます。

これが労働者性を判断する基本の基準です。そのうえで、判断が難しい場合には、補強する要素も考慮して総合的に判断するとしています。

区分要素見られる点
使用従属性(指揮監督下の労働)仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由仕事の依頼を断れるか
使用従属性(指揮監督下の労働)業務遂行上の指揮監督業務の内容や進め方について、具体的な指揮命令を受けているか
使用従属性(指揮監督下の労働)拘束性勤務場所や勤務時間が指定され、管理されているか
使用従属性(指揮監督下の労働)代替性(補強要素)本人に代わって他の人が仕事をすることや、補助者を使うことが認められているか
使用従属性(報酬の労務対償性)報酬の性格報酬が、仕事の成果ではなく、働いた時間に対して支払われているか
補強する要素事業者性機械・器具を自ら負担しているか、報酬の額が同じ業務の従業員より著しく高いか など
補強する要素専属性の程度他社の仕事をすることが制約されているか、報酬に固定給的な部分があるか
補強する要素その他選考の過程、給与所得としての源泉徴収、労働保険の適用、服務規律、退職金・福利厚生の適用

これらは、いくつ当てはまれば労働者、という点数式の基準ではありません。それぞれの要素について実態がどうなっているかを、総合的に判断します。

今も行政と裁判の判断の基準

この報告は40年以上前のものですが、今も行政の判断の基準です。

2025年(令和7年)3月31日の通達(基監発0331第1号ほか)でも、労働者性についてはこの報告に基づいて判断するとしています。

また裁判例でも、この報告が挙げる要素に沿って事情が検討されています。厚生労働省の研究会では、1985年(昭和60年)以降の労働者性の裁判例を、この報告の判断要素ごとに整理した資料が示されています。

Qちゃん
要素がたくさんあって、どれが決め手になるのか分かりにくいですね。
A先生
そこが労働者性を判断するうえで難しいところです。同じ一人親方でも、現場での働き方によって結論が変わります。だからこそ、契約書だけでなく、実際の働き方を一つずつ確認する必要があります。

契約書の名称ではなく実態で判断される

報告は、「雇用契約、請負契約といった形式的な契約形式のいかんにかかわらず」、実質的な使用従属性を総合的に判断する必要があるとしています。

つまり、契約書の名称を「業務委託契約」や「請負契約」にしても、それだけで労働者でなくなるわけではありません。契約書の内容が実態と異なれば、実態の方が重視されます。

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労働者と判断されると何が起きるか

業務委託や請負として扱っていた人が労働者と判断されると、次のような問題が一度に生じます。

  • 割増賃金:時間外・休日・深夜の労働に、割増賃金の支払いが必要になる。支払っていなければ未払い賃金になる
  • 年次有給休暇:要件を満たせば、年次有給休暇を与えなければならない
  • 労災保険:業務上のけがや病気に、労災保険が適用される
  • 安全衛生:雇入れ時の安全衛生教育や健康診断など、労働安全衛生法の義務が生じる

特に割増賃金は、さかのぼって請求されることがあります。賃金の請求権の時効は、当分の間3年です(労働基準法第115条、第143条第3項)。

Qちゃん
本人も業務委託で納得していた場合でも、そうなるんですか?
A先生
本人が納得していたことや、当事者がどう認識していたかも、判断の材料の1つにはなります。ただ、それだけで結論が決まるわけではありません。実際の働き方が従業員と変わらなければ、実態の方が重く見られます。

関連:割増賃金の基礎となる1時間当たりの賃金の計算方法

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安全衛生上の指示と労働者性

建設業や製造業の現場では、業務を委託した個人事業者に対して、安全のための指示をすることがあります。しかし、「指示をすると、労働者性が認められてしまうのではないか」と心配する声が以前からありました。

この点について、2025年(令和7年)3月31日に、厚生労働省から通達が発出されています(基監発0331第1号ほか)。通達は、そうした心配から必要な指示をためらうと、労働災害につながるおそれがあることを指摘しています。そのうえで、次のような考え方を示しています。

法律上の義務を履行するための措置の実施をもって、直ちに、労働者性を肯定する方向に働く事情とはならず、偽装請負と判断されることもないと考えられること。

つまり、労働安全衛生法令に基づく措置であれば、それだけで労働者性を肯定する方向には働かない、ということです。

ただし、通達は、どのような指示なら問題がなく、どのような場合に注意が必要かを、場面ごとに分けて示しています。安全のための指示であれば何でもよい、というわけではありません。

関連:安全配慮義務とは? 根拠となる法律・判例と4つのチェックポイント

判断基準の見直しの動き

昭和60年の報告は、作成から40年以上が経過しています。この間に、プラットフォームを通じて仕事を受ける人など、新しい働き方が広がりました。

そのため、2025年(令和7年)1月の労働基準関係法制研究会報告書は、この判断基準の見直しを検討する必要性を指摘しました。これを受けて、2025年5月から、厚生労働省で「労働基準法における『労働者』に関する研究会」が開かれ、判断基準の在り方が検討されています。

現時点では、昭和60年の報告が判断の基準であることに変わりはありませんが、今後の検討の結果には注意しておく必要があります。

労働者性に関する実務上の注意点

契約書の名称を変えただけで、働き方は従業員と同じ

契約書を業務委託契約にしていても、勤務時間や勤務場所が決められ、仕事の進め方も細かく指示されている。こうした状態では、労働者と判断される可能性が高くなります。

契約書の名称と実態が合っているかを確認しておくことが重要です。

従業員と同じ就業規則・服務規律を当てはめている

業務委託の人にも、タイムカードで出退勤を記録させ、従業員と同じ服務規律を守らせている会社があります。

報告は、服務規律を適用していることを、会社がその人を自らの労働者と認識していると推認される事情の1つに挙げています。

管理のしやすさから従業員と同じ扱いにしていると、労働者性を補強する方向に働きかねません。

従業員から業務委託に切り替えたのに、仕事が変わっていない

定年後や退職後に、従業員との雇用契約を業務委託契約に切り替えるケースがあります。

このとき、契約の形式は変わっても、担当する仕事、指示の受け方、勤務時間が以前と変わっていなければ、実態は従業員のときと同じと見られる可能性があります。

雇用から業務委託に切り替えるときは、何を変えるのかを整理しておく必要があります。

Qちゃん
雇用から業務委託に切り替えるときは、具体的に何を変えればよいのでしょうか?
A先生
仕事の内容や現場の事情によって変わるので一律には言えません。契約書と実態の両方を見て判断する必要があります。

まとめ

労働者性は、契約書の名称ではなく、働き方の実態によって判断されます。業務委託や請負で人に仕事を頼んでいる会社は、その人の働き方が、従業員と変わらないものになっていないかを確認しておく必要があります。

そして、労働者性の問題は、業務委託をやめた人からの未払い賃金の請求や、労働災害が起きたときに、はじめて表に出ることが多いのが実情です。そのときには、さかのぼって割増賃金や労災保険の問題が一度に生じます。

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当事務所の場合

あべ社労士事務所の代表社労士は、厚生労働省労働基準局で労働基準法令・労働安全衛生法令の政策立案に従事してきました。

当事務所の労務監査では、業務委託・請負で仕事を依頼している方の働き方も含めて、労働法令が守られているかを確認します。

特定の契約について確認したい場合は、スポット相談でもご相談いただけます。

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