「うちはまだ50人に届いていないから、衛生管理者や産業医は必要ない」——そう思っている会社ほど、実際に数えてみると、とっくに50人を超えていることがあります。
人事労務の実務では、「常時使用する労働者」が何人いるかで法令の義務の有無が決まる場面が数多くあります。
ところがこの言葉は、法律ごとに意味が異なります。そして、正社員だけを数えて判断してしまう誤りや、数える単位(事業場単位と企業単位)の取り違えが、非常に多く見られます。


「常時使用する労働者」は法律ごとに意味が違う
結論から書くと、「常時使用する労働者」や「常時雇用する労働者」の中身は、それぞれの法律の定義と解釈によって決まります。
法律ごとに目的が違うため、同じような言葉でも対象となる人の範囲が変わります。「常時使用する労働者」と聞くと正社員を思い浮かべるかもしれませんが、それは正確ではありません。パートタイム労働者やアルバイトを含めて数える場面のほうが、むしろ一般的です。
まず全体像を整理します。
| 場面 | 数える単位 | 短時間労働者の扱い | 主な義務 |
|---|---|---|---|
| 常時使用する労働者 (労働基準法) | 事業場単位 | 労働時間を問わず、常態として働く全員を算入 | 就業規則の作成・届出(常時10人以上) |
| 常時使用する労働者 (労働安全衛生法) | 事業場単位 | 労働基準法と同じ(常態として使用する全員) | 衛生管理者・産業医の選任、衛生委員会、ストレスチェック(常時50人以上) |
| 常時使用する短時間労働者 (労働安全衛生法・定期健康診断の対象) | 個々の労働者ごとに判断 | 無期または1年以上の見込み、かつ週所定労働時間が通常の労働者の概ね4分の3以上 | 定期健康診断の実施 |
| 常時雇用する労働者 (障害者雇用促進法) | 企業単位 | 週20時間以上であることが要件 | 法定雇用率、障害者雇用納付金(常時雇用する労働者100人超) |
注目していただきたいのは、労働時間の長短を問うかどうかが、法律によって分かれるという点です。


労働基準法における「常時使用する労働者」
労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する事業場に、就業規則の作成と労働基準監督署への届出を義務付けています。
- 労働基準法第89条(作成及び届出の義務)
- 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
ここで重要なのは、週何時間働いているかは考慮されないという点です。週40時間勤務の正社員も、週15時間勤務のパートタイム労働者も、常態として働いているのであれば、等しく1人として数えます。
この義務に違反した場合、労働基準法第120条第1号により30万円以下の罰金の対象となります。
関連:就業規則の作成が義務付けられる「常時10人以上」の正しい数え方は?
「常態として」とはどういう意味か
「常時」という言葉が指しているのは、常態として、つまり普段の状態としてその人数がいるかということです。一時的に人数が増減しても、それだけで判断は変わりません。
この「常態として」という考え方は、後述する労働安全衛生法の行政通達(昭和47.9.18 基発第602号)に明記されており、労働基準法・労働安全衛生法に共通する判断の軸になっています。


「常用」と「日雇」の違いで判断するのではない
「常時使用する労働者」の「常時」を、雇用形態としての「常用」と結び付けて、日雇労働者や短期のアルバイトは数えなくてよい、と考えてしまうことがありますが、これは誤りです。
判断の軸は雇用形態ではなく、その事業場で常態として労働者を使用しているかどうかです。
日雇労働者であっても、常態として使用しているのであれば人数に含めます。この点についても次の労働安全衛生法の行政通達で明確に示されています。
労働安全衛生法における「常時使用する労働者」
労働安全衛生法は、もともと労働基準法から分かれて制定された法律です。そのため「常時使用する労働者」の考え方も、労働基準法と共通しています。
行政通達(昭和47.9.18 基発第602号)が、次の解釈を示しています。
「常時当該各号に掲げる数以上の労働者を使用する」とは、日雇労働者、パートタイマー等の臨時的労働者の数を含めて、常態として使用する労働者の数が本条各号に掲げる数以上であることをいうものであること。
つまり、衛生管理者や産業医の選任義務が生じる「常時50人以上」とは、正社員だけで50人という意味ではありません。日雇労働者やパートタイマーを含めて、常態として使用する労働者が50人以上ということです。
常時50人以上になると、次の義務が一度に発生します。
- 衛生管理者の選任(労働安全衛生法第12条)
- 産業医の選任(同法第13条)
- 衛生委員会の設置・毎月1回以上の開催(同法第18条)
- ストレスチェックの実施(同法第66条の10)
- 定期健康診断結果報告書の労働基準監督署への提出
衛生管理者・産業医を選任しなかった場合、労働安全衛生法第120条第1号により50万円以下の罰金の対象となります。
関連:衛生管理者の選任・必要な人数・職務内容と実務上の注意点
関連:産業医の選任義務・職務内容と2026年8月からの報告義務


人数の数え方:ケース別の判断
ここからは、実務で判断に迷いやすいケースを整理します。
パートタイム労働者・アルバイト
算入します。労働時間の長短は問いません。週1日勤務であっても、常態として働いているのであれば1人として数えます。
派遣労働者
ここは労働基準法と労働安全衛生法で扱いが分かれるため、特に注意が必要です。
| 場面 | 派遣元 | 派遣先 |
|---|---|---|
| 就業規則の作成義務(常時10人以上) | 算入する | 算入しない |
| 衛生管理者・産業医の選任・衛生委員会(常時50人以上) | 算入する | 算入する |
| 安全管理者・安全委員会(一定の業種・常時50人以上または100人以上) | 算入しない | 算入する |
労働安全衛生法上の体制のうち、
- 衛生に関するもの(衛生管理者・産業医・衛生委員会など):派遣元・派遣先の双方で算入
- 安全に関するもの(安全管理者・安全委員会など):派遣先のみで算入
と異なることにご注意ください。これは労働者派遣法第45条が、安全に関する規定については派遣先を事業者とみなしているためです。実際に機械を動かし、危険が生じるのは派遣先の現場だからです。
派遣労働者を多く受け入れている事業場では、自社の直接雇用が50人に満たなくても、派遣労働者を加えると50人を超えているという状況が起こり得る点にご注意ください。


出向者
在籍出向の場合は、実際に指揮命令を受けて働いている出向先の事業場で数えるのが原則です。また転籍(移籍出向)であれば、労働契約自体が移っているため、当然に出向先で数えます。
役員
取締役などの役員は労働者ではないため、原則として算入しません。
ただし、工場長や部長などを兼務し、役員報酬とは別に賃金の支払を受けているような使用人兼務役員については、労働者としての性格を持つ部分について労働者として扱われます。肩書だけで機械的に除外しないよう注意してください。
同居の親族
同居の親族のみを使用する事業には労働基準法は適用されず(労働基準法第116条第2項)、同居の親族は原則として労働者に当たりません。
ただし、他に労働者がいる事業場で、同居の親族が他の労働者と同様の労働条件で働き、事業主の指揮命令のもとで労務を提供している場合には、労働者として扱われることがあります。家族経営から規模を拡大してきた会社では、実態に即した確認が必要です。
休職者・育児休業中の労働者
労働契約が継続している以上、算入します。現に出勤していないという理由だけで人数から外すと、選任義務の判断を誤ります。


定期健康診断の対象となる「常時使用する労働者」
ここが、実務で最も誤解されている論点です。
労働安全衛生法第66条は「常時使用する労働者」に対する健康診断を義務付けており、定期健康診断については労働安全衛生規則第44条が1年以内ごとに1回の実施を定めています。
- 労働安全衛生規則第44条第1項(定期健康診断)
- 事業者は、常時使用する労働者(第四十五条第一項に規定する労働者を除く。)に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。
短時間労働者が定期健康診断の対象となるかについては、行政通達(平成19.10.1 基発第1001016号)が解釈を示しています。要約すると、次の2つの要件をいずれも満たす者が対象です。
- 期間の定めのない労働契約により使用される者(契約期間が1年以上である者、契約更新により1年以上使用されることが予定されている者、1年以上引き続き使用されている者を含む)
- 1週間の労働時間数が、同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること
なお、4分の3未満であっても、上記の契約期間の要件を満たし、通常の労働者の所定労働時間数の概ね2分の1以上である者については、健康診断を実施することが望ましいとされています。
「4分の3未満は安衛法の労働者ではない」は誤り
この通達をめぐって、次のような誤った理解が広まっています。
- 通達に「4分の3以上」と書いてある
- だから4分の3未満の短時間労働者は、労働安全衛生法上の「常時使用する労働者」に当たらない
- したがって衛生管理者や産業医の選任義務の人数にも入らない
これは明確な誤りです。
「4分の3以上」という基準は、あくまで定期健康診断の対象者を判断するための要件であって、労働安全衛生法全体に及ぶものではありません。衛生管理者・産業医の選任義務における人数のカウントでは、4分の3未満の短時間労働者も、常態として使用していれば算入します。
同じ「常時使用する労働者」という言葉でも、条文によって意味が変わるのです。


関連:年1回の定期健康診断に関して就業規則で定めておくべき内容は?
障害者雇用促進法における「常時雇用する労働者」
障害者雇用促進法では、法定雇用率の算定や障害者雇用納付金の対象判定に「常時雇用する労働者」の数を用います。障害者雇用納付金制度の対象となるのは、常時雇用する労働者が100人を超える事業主です。
なお、行政資料や実務の解説では「常時雇用労働者」「常用雇用労働者」と呼ばれることもありますが、いずれも条文上の「常時雇用する労働者」を言い換えた通称と理解して差し支えありません。
ここでの「常時雇用する労働者」は、次のいずれかに該当する者とされています。
- 雇用期間の定めがなく雇用されている労働者
- 雇用期間を定めて雇用されている労働者であって、その雇用期間が反復更新され、雇入れのときから1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる労働者
- 過去1年を超える期間について引き続き雇用されている労働者であって、1週間の所定労働時間が20時間以上の労働者
注目していただきたいのは、週20時間以上という労働時間の要件がある点です。労働基準法・労働安全衛生法の人数カウントが労働時間を問わなかったのに対し、ここでは個々の労働者の労働時間が判断基準に入ります。


実務上のよくあるミス
1. 数える単位を取り違える
最も多い誤りです。労働基準法・労働安全衛生法の義務は、法人単位ではなく事業場単位で判断します。
本社30人、工場35人の会社は、法人全体では65人ですが、どちらの事業場も50人未満です。この場合、衛生管理者・産業医の選任義務は生じません。逆に、法人全体では小規模でも、1つの事業場に50人が集中していれば義務が生じます。
一方、障害者雇用促進法は「企業単位」で合算します。
つまり、本社30人・工場35人のこの会社は、労働安全衛生法では「50人未満の事業場が2つ」ですが、障害者雇用促進法では「65人の企業」として扱われます。同じ会社が、どの法律で見るかによって全く違う姿になるわけです。


2. 正社員だけで数えてしまう
冒頭で触れたとおりです。パートタイム労働者、アルバイト、日雇労働者、そして事業場によっては派遣労働者まで含めて数える必要があります。給与計算の対象人数と、法令上の「常時使用する労働者」の数は一致しません。
3. 50人を超えた後の手続きを失念する
人数を正しく数えられていても、超えた後の手続きが漏れていては意味がありません。
- 衛生管理者・産業医は、選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任する
- 選任後は、選任報告書を遅滞なく所轄の労働基準監督署長に提出する
- 衛生委員会を設置し、毎月1回以上開催して議事の概要を労働者に周知し、記録を3年間保存する
労働基準監督署の調査では、選任しているかどうかだけでなく、いつ50人を超え、いつ選任したのかまで確認されます。人数が増えた時期と選任日が大きく離れていれば、その間は義務違反の状態だったことになります。
まとめ
ここまで見てきたとおり、「常時使用する労働者」の数え方は、それ自体に罰則があるわけではありません。しかしこの数を誤ると、その先にあるすべての義務の判断が連鎖的に間違っていきます。就業規則を作らなくてよいと思い込んでいた、産業医を選任しなくてよいと思い込んでいた——その出発点が、人数の数え間違いだったというケースは珍しくありません。
そして厄介なことに、この誤りは自社では気づきにくいものです。従業員数は少しずつ増えていくため、「いつの間にか超えていた」という形になります。労働基準監督署の調査で指摘されて初めて、数年分の義務違反が明らかになる——実務でよく見てきた光景です。
当事務所の場合
あべ社労士事務所の代表社労士は、厚生労働省で労働基準法令・労働安全衛生法令の政策立案に従事し、労働安全衛生行政を担当してきました。条文と通達がどのような構造で組み立てられているかを踏まえて解釈できることが強みです。
当事務所の労務監査では、事業場ごとの労働者数を実態に即して確認したうえで、その規模で本来発生しているはずの義務が果たされているかを点検します。
自社の事業場が本当は何人規模なのか確かめるなら
経営労務診断基準の51項目と独自の労働安全衛生法の点検項目に沿って、厚生労働省労働基準局出身の代表社労士自らが点検します。
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